日本農業は、やっと大規模農家が主役になる 注目の全国大会開催!真価問われる新生JA

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たとえばコメの場合は、提示されたTPP対策を打つために、年間100億円単位の追加の財政負担が必要とも言われる。厳しい財政事情を鑑みれば、少ない金額ではない。自民党の大物農林族も「何でもかんでもカネをつけてあげられるような地合ではない」と指摘している。

ちなみに、ウルグアイ・ラウンド合意の時には、総額6兆円の農業関連対策費を準備したが、その対策費を用いて行われた事業のうち少なからぬものが農業と関係ないなどと批判された。

平等よりも大規模な専業農家の支援を!

JAグループが取り組むべき対策は、農家の生産性向上だ。組合員に販売する肥料や農薬の価格引き下げ、大型の農業機械の低価格リースといった地道な活動を強化しなければならない。大規模化して効率化を目指す農家に対し、専任の担当者を置いて重点的に指導することも必要だ。一方で、TPPでは牛肉や茶の輸出機会が増え、海外に高品質な日本の農産物を売る機会も提供してくれそうだ。販売先として海外を開拓することも求められる。

農協は個々では経営規模の小さい農家が、自らの事業と生活を守るために作った組織だ。TPPによって、以前より国際競争が激しくなるのは事実だろう。JAグループには、農家とともに競争を避けるのではなく、農家の盾となり、農家のために競争に打って出ることが不可欠だ。農家と一緒になってTPPの合意を嘆いてみるだけでは何も始まらないのだ。グループとしてのTPP対応方針を早急に打ち出すことが求められる。

地域農協は組合員間の平等を旨として経営されてきたが、大規模な専業農家の重点支援によってもたらされる利益を、ほかの組合員に還元する道を、組合員の了解を得たうえで選ぶべきである。そうでなければ構造改革は進まないし、農家も地域農協も共倒れとなりかねない。

そして、今こそJAバンクのような金融事業から潤沢に生み出される利益を農業のために使うべき時でもある。JA全中や全国農業協同組合連合会(JA全農)、農林中央金庫(農林中金)といった全国組織は、地域農協のそうした活動を徹底的に支援する必要がある。今年春頃の農協改革で求められたのは、まさにそういう姿勢のはずであり、JAグループも異論はないはずだ。

10月14~15日には、3年に1度のJA全国大会が開かれ、2016~18年度のグループ経営方針が決められる。TPPはこれからすぐに発効するわけではなく、この3年間は逆風に立ち向かい、追い風に変える重要な期間となる。どのような経営方針を打ち出すのか。政府や自民党への依存体質から脱却し、力強い農業、農家の構築のために有効な手だてを講じることができるかが問われる。

=敬称略=

飯田 康道 共同通信記者

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1980年茨城県古河市生まれ。京都大学理学部卒。2004年共同通信社入社。徳島支局、名古屋・大阪両支社経済部を経て、現在、東京本社編集局経済部(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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