「仮設住宅で何もしないと、みんなおかしくなってしまう」、手縫いの技能で古着から半てんづくりに挑戦--そごう柏店「までい着」販売会までの足取りを追う

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そんなある日、佐野さんは団地の集会場にカラオケセットでも設置しようかと思った。みんなで歌でも歌えば、気が紛れるかもしれないと考えたからだ。しかし、すぐに取りやめた。そんな気晴らしでは、隔靴掻痒だし、昼からカラオケをしている光景が外部に見られれば、通りすがりの訳のわからぬ人に雑言、卑語を流されるかもしない。

ただでさえ、「避難民は何もしないでぶらぶらしている」「昼から遊んでいる」等々の心無い悪口が流布されている。団地の隣には工業団地の広大な空き地があり、そこにゲートボール場をつくろうとも考えたが、工業団地の運営者である福島市から利用許可は得られなかった。

その頃、飯舘村長の菅野典男さんも「これはまずい」と思い始め、ある手を打っていた。

仮設住宅で、みんな、無為の日々を送っている。ある日、集会で久しぶりに出会った働き盛りの男性すら、「もう、村に戻っても働けねえな」と無気力な顔つきだった。



■飯舘村長の菅野典男さん

菅野さんは、仮設住宅団地からちょっと離れてはいたが、農地を借りた。ここで村民に農作業をしてもらおうと考えたからだ。ところが、期待外れなことに、これに呼応して動き出す人はいなかった。

「ああ、村民の気持ちがなえ始めている」。菅野さんは、避難生活について恐れていた事態が起こりつつあることに慄然とした。

佐野さんは、その状況の真っただ中にいて、考え続けていた。そして、結論を得た。「集会場で手作業の仕事をしよう」

といっても、何をしたらいいのか。そのとき気がついたのが、高齢者の中に手縫いの裁縫に秀でた人たちがいるということだった。

ある日、取材にやってきた「日本農業新聞」の記者に対して、佐野さんはこう語った。

「古着で、もう着ないような着物があれば、寄付してもらえないだろうか」。

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