インドネシア新幹線、真に敗れたのは誰か 超大型案件は中国に軍配が上がったが…

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実際、4月には、日本政府が協力して進めてきた、西ジャワ州チラマヤ港の新国際港計画が突如中止された。ジャカルタ近郊にある既存港を拡張すれば、民間資本だけで事足りる、との判断からだ。

そして9月上旬、高速鉄道計画を白紙撤回。すかさず中国はジョコ政権の意向を酌んで、インドネシア政府に財政負担や債務保証を求めない、つまり、中国とインドネシアの合弁企業に中国が建設資金を貸し付ける新提案を行った。一方、日本側は計画の修正案を示せずに、最終的に中国案が採用された。

何を優先するべきか

安倍政権の成長戦略であるインフラ輸出。その目玉といえる高速鉄道案件を中国にさらわれてしまった。もっとも、日本政府が敗退ムード一色かというと、そうでもない。

「今回の案件は、功を焦った外務省が強く推していた。調査を進めてきた経済産業省は乗り気ではなかった」と事情を知る関係者は明かす。理由は「事業リスクが大きい」という一点に尽きる。時間もカネもかかる高速鉄道案件は、リスクも計り知れない。政権公約を優先するあまり、採算を度外視してしまうようだと、本末転倒である。

利用者が予想どおりに伸びず、資金繰りが行き詰まった前例が、台湾高速鉄路だ。開業8年目の今年、一時は経営破綻もうわさされたが、台湾政府の支援を取り付け、ようやく危機を乗り越えた。リオデジャネイロやサンパウロを結ぶブラジル高速鉄道計画は、民間にリスクを負わせるスキームが嫌気され、いまだ施工業者すら決まっていない。

高速鉄道案件はインドのムンバイ─アーメダバード間、シンガポール─マレーシアのクアラルンプール間など、今後も多くの案件が控える。政権公約や省益のために、国益が損なわれる事態だけは避けなければならない。

「週刊東洋経済」2015年10月17日号<10日発売>「核心リポート02」を転載)

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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