「松平定信の"寛政の改革"を風刺」 大河「べらぼう」主役の《蔦屋重三郎》が刊行した"黄表紙"が売れに売れた背景
ちなみに、蔦屋からは、天明8年(1788)、朋誠堂喜三二の『文武二道万石通』(以下、『文武』と略記)も刊行され「古今未曾有の大流行」(『近世物之本江戸作者部類』天保年間に滝沢馬琴が著した江戸文学の作者辞典)と言われるまでになります。
『文武』も、寛政の改革を素材にして、それを風刺したものでした。松平定信による寛政の改革を皮肉ったものとしては狂歌「世の中に 蚊ほど うるさきものはなし 文武文武(ブンブブンブ)と 夜も寝られず」が有名ですが、政治を文学の題材として採用した、これまで述べてきた書物も大衆の人気を博したのです。
民衆の気持ちを代弁した
眼前に展開している政治改革(寛政の改革)を風刺、皮肉るこれら狂歌や書物は、民衆の気持ちを代弁するものだったでしょう。これらの作品を見て、読んで、大衆は(そうだ、そうだ)と心の中で共感したのです。大っぴらに幕府を非難するわけにはいきませんので。人々の不満の捌け口に、黄表紙がなったと言うべきでしょうか。
見方を変えれば、時事問題や政治を題材にした文学がこれほど売れるということは、人々がそうしたものに、関心を持っているからと言うこともできるでしょう。
昨今、政治小説がベストセラーになったと言うことは聞きませんが、それは現代人が政治に「無関心」もしくは「諦念」のようなものを抱いているからかもしれません。これは、筆者の勝手な雑感ですが……。
(主要参考引用文献一覧)
・松木寛『蔦屋重三郎』(講談社、2002)
・鈴木俊幸『蔦屋重三郎』(平凡社、2024)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら