「産休クッキー」炎上の背景に見える複雑な感情 負の感情に支配されず、心を軽くするための考え方

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塩田:近年は逆に、リアルな場での繫がりを持つ努力をするようになりました。子どもを迎えに行ったときに、ちょっと学校に残ってほかの親たちと他愛ない話をするだけで、SNSとは全く違う本当の人間同士のコミュニケーションがとれることを再確認しました。

ときには、子育ての悩みを打ち明けたり、子どもの進路について相談したりもします。そこで得るリアルな情報は、とても役に立つのです。数分だけですが、毎朝顔を合わせて話しているからこそ、「今日いなかったけど大丈夫? 子どもが風邪引いた? なにか手伝おうか?」とお互いに連絡することができます。私が夫や親戚と遠く離れて暮らしていてもなんとかやっていけているのは、こういったリアルな人と人との繫がりのおかげです。

SNSが幅をきかせている現代だからこそ、自分から対面の交流を持ち人間関係を広げることは、子育てと仕事の両立という大変な時期を乗り切るために重要なのではないかと思います。

SNSの罠、エンパシーに欠ける生きにくい世界

塩田:そもそも、SNSでは全く知らない人とやりとりをすることで、すごく世界が広がったと思いがちだけれど、それは勘違いなんですね。

SNSの世界では、どうしても自分と考え方が似ている人、好きなものが似ている人ばかりフォローすることになります。アルゴリズムに基づいて、どんどんそういう人たちと繫がっていくし、関連したコンテンツばかりがおすすめとして表示されるようになるから、一見世界が広がっているように感じるものの、視野としてはひどく狭まっているのです。

加えて、人間には「確証バイアス」というものがあり、自分がこうだと思ったら、その確信をサポートするような情報しか手に入れようとしなくなります。

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たとえば、コロナワクチンが安全じゃないと思った人は、ワクチンに否定的な情報ばかり集め、自分の考えを固めていきます。「どちらかわからない」という立場で、フラットに情報を集めることができなくなってしまうのですね。自分とは逆の考えの情報も集めてみて、比較してみよう、なんて思える人はそうそういません。

こうして、SNS上では自分と似ている人たちとの繫がりが強固なバブルになり、それ以外の人と交流することが極端に少なくなる。だから、自分と違う生き方、価値観、考え方の人に会うと戸惑ってしまう。「この人はどういう境遇なんだろう。どういう考え方なんだろう」と推し測る力や許容する力、話し合う力、共感する力がどんどん弱まり、感情的にカッとなってしまって衝突する。それは、エンパシー(自分と異なる価値観に触れたときに、相手の考えや感情を思いやり、想像する力)に欠ける、生きにくい世界ではないでしょうか。

SNS時代になればなるほど、多くの人と繫がっているようで、実は本当のところでは繫がっていない、とても孤独な状況に置かれるのです。

【もっと読む】日本で「子持ち様」論争が過熱する根本原因 では、日本で「子持ち様」論争が起きる背景と、誰もが生きやすい社会を実現するためのヒントを探ります。
内田 舞 小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長

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うちだ まい / Mai Uchida

小児精神科医。ハーバード大学医学部准教授。マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長。北海道大学医学部卒。在学中に米国医師国家試験に合格。卒業と同時に渡米し、イェール大学とハーバード大学で研修医として過ごす。臨床医としてアメリカで働く日本人の史上最年少の記録を更新。ハーバード大学付属病院であるマサチューセッツ総合病院にて臨床医として子どもたちの診察に携わる傍ら、研究者として気分障害などに関わる脳機能を解析する脳画像の研究にも尽力。研修医や医学生を指導する立場でもある。3児の母。著書に『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る』(文春新書)、『うつを生きる 精神科医と患者の対話』(浜田宏一との共著、文春新書)、『REAPPRAISAL 最先端脳科学が導く不安や恐怖を和らげる方法』(実業之日本社)、『まいにちメンタル危機の処方箋』(大和書房)がある。

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塩田 佳代子 感染症疫学者、獣医師、ボストン大学公衆衛生大学院グローバルヘルス学科アシスタントプロフェッサー

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しおだ かよこ / Kayoko Shioda

感染症疫学者、獣医師、ボストン大学公衆衛生大学院グローバルヘルス学科アシスタントプロフェッサー。東京大学で6年間の獣医学専修を卒業。その後、アメリカ・アトランタのエモリー大学で公衆衛生学修士号取得。CDC(Centers for Disease Control and Prevention=米国疾病予防管理センター)において、感染症疫学者としてアウトブレイクの対応、サーベイランス、疫学研究などに2年間従事。西アフリカで起きたエボラ出血熱のパンデミックを目の当たりにし、スキルの向上を目指してイェール大学の感染症疫学科に進学し感染症疫学博士号取得。WHO(World Health Organization)のコンサルタントも務める。2022年、第1回羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)の奨励賞受賞。二児の母。本書が初の著書となる。

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