日本株、売りが一巡する時期が近づいている プロ注目の「株価と売買代金の逆転現象」とは

拡大
縮小

こうした中で、昨秋にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などが運用を見直したこともあり、日本株は堅調な展開を続けていた。2015年6月現在では、日経平均は年初来で2割近く上昇していた。どうやら、「中東のクジラ」には、日本株は「益出し売り」の対象になったようだ。

日経平均株価は8月下旬に1万8000円割れ、9月下旬にはついに1万7000円割れ、と下値模索が続いている。

株価と売買代金の「逆行現象」は何を意味するのか

だが、8~9月の売買代金に目を移すと、ピークの4兆円台後半から2兆円台半ばへ商いが縮小している。これは、株価と売買代金の逆行現象(ダイバージェンス)と呼ばれ、底入れを示唆するともいわれている。

要するに、日本株が年初来で見るとマイナス圏に入っているが、その割には投げ売りや換金売りが「徐々に枯れてきている」との見方もできるわけだ。

日経平均の年初来高値は6月8日の2万0868円(終値)である。市場参加者の含み損が拡大するなか、こうした高値圏で買ってしまった人はどうするのだろうか。信用取引においては「6カ月期日」(株式の現物を引き取る「現引き」か、売り決済)が12月下旬に到来する。ちなみに足元の信用評価損益率はマイナス13.78%(9月18日申込時点)と、底値圏とされるマイナス15%に近づいている。今後は「高値期日明け」に伴い、戻り売り圧力が徐々に和らぐことも想定される。

今から約1年前の昨秋(10月)を思い出すと、IMF(国際通貨基金)による世界経済の成長減速懸念をきっかけに、エボラ熱拡散リスク台頭や、安倍内閣での女性閣僚辞任などが重なり、日経平均は一時1万4500円台まで大きく調整していた。その後10月末に日銀の追加緩和(ハロウィン緩和)による株高へつながった。

9月25日には安倍首相と日銀の黒田総裁が足元の景気認識などに関する意見を交換、約4カ月ぶりの「アベクロ会談」となった。10月以降も材料が目白押しで、10月1日に日銀短観(9月調査)、同6日~7日に日銀金融政策決定会合、22日にECB(欧州中央銀行)理事会、28日にFOMC(米連邦公開市場委員会)、30日に日銀展望リポート等を控えている。

このままいくと、10月に入っても海外では中国の景気減速懸念、米国の利上げ観測がくすぶり続けそうだ。ただ、日本株は昨秋と似たような下落の展開をたどりつつあり、今後は財政政策や追加金融緩和などの大型政策を早急に求める「催促相場」になることも予想される。現状はすでにこの局面に入りつつあるが、こうなると通常の相場では下落の最終局面だ。

今年8月、バブル期を上回る水準に達していた東証1部時価総額は、ピークの610兆円台から500兆円前後へ急速にしぼみ、名目国内総生産(GDP)とほぼ並んだ。また、1万6413円(日銀追加緩和)や1万6795円(年初来安値)にも接近、ここからの下値は限定的との見方も根強い。

上記のように、需給面では底入れを示唆する「下値模索と商い縮小」といった逆行現象もうかがえるなか、日本株は例年のように、秋に底入れしたのち年末高となる可能性もある。

中東のクジラは今回の局面で水面下に潜ってしまったのかもしれないが、本物のクジラが息継ぎなどで水面へと浮上するように、中東のクジラも日本のクジラも、いずれは存在感を見せつけるときが来るはずだ。「底値探り」を続ける日本株も、そろそろ売りが一巡する時期が近づいているかもしれない。

中村 克彦 みずほ証券 シニアテクニカルアナリスト

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なかむら かつひこ / Katsuhiko Nakamura

IFTA国際検定テクニカルアナリスト(MFTA)、日本テクニカルアナリスト協会(NTAA)評議員。

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