GAFAMが人々を支配「テクノ封建制」が示す現実 クラウド資本は多くの労働者を搾取している
ドン・ドレイパー(注:ドラマ『マッドメン』の主人公。天才的な広告クリエイター)はおそらく、ロマン主義の生き残りの象徴的存在だろう。彼は科学を疑い、コンピュータを忌み嫌っていた。自然を愛し、バカでかいキャデラックで遠出することを好んだ。そして個人主義を貫いて生きていた。古きよき思い出に耽(ふけ)ることをよしとした。女性を愛でながらも、手に入ったとたんに拒絶する。
彼は感情を恐れていた。なぜなら、感情を人間の精神の本質を映し出す究極の貯蔵庫だと考えていたからだ。そして自分の才能を使って、記憶と感傷と気まぐれと洞察の混ぜ合わせを商品化し、消費者の財布の紐を緩めさせた。
それに対して、ドレイパーの分身のようなアルゴリズムのアレクサはロマンチックではないけれど、クラウド資本はドレイパーよりもはるかにうまく人間の感情をマネタイズする。知り得た私たちの趣味趣向を利用して、消費に向かわせるような体験をカスタムメイドする。そして、それにどう反応するのかを踏まえて、さらにひとりひとりに合った体験を作り出す。
クラウド資本が密かに用意する策略
しかし、それははじまりにすぎない。ドン・ドレイパーが驚嘆し、そしておそらく愕然とするような方法で、クラウド資本は消費者の行動を変えるばかりか、さらなる策略を密かに用意していた。クラウド資本はみずからの再生産と強化、維持を私たちに直接やらせようとしているのだ。
クラウド資本がどのようなものによって構成されているかを考えてみよう。スマート・ソフトウェア、サーバー・ファーム、基地局、そして果てしない長さの光ファイバーだ。だが、コンテンツがなければそれらすべてに価値はない。
クラウド資本に蓄積された最も価値ある部分は、物理的なものではなく、フェイスブックに投稿されたストーリーであり、TikTokやユーチューブにアップロードされた動画であり、インスタグラムの写真であり、ツイッターのジョークや悪口であり、アマゾンのレビューであり、私たちの位置情報だ(グーグルマップで最新の渋滞情報もわかるが)。
私たちは自分の物語、動画、画像、冗談、そして行動を差し出すことで、どんな市場も経由せずにクラウド資本の蓄積を生み出し、再生産しているのだ。
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