緊縮策を実施すれば経済は回復するのか--ロバート・J・シラー 米イェール大学経済学部教授
バーナード・マンデヴィル(オランダ生まれの英国人哲学者・風刺詩人)は、今では古典とされている『蜂の寓話-個人の悪徳は公共の利益』(1724年)を韻文の形で著した。繁栄を謳歌していた蜂の社会が突然、節制という美徳を実行したため、過剰な支出やぜいたくがすべて姿を消した。それでこの社会はどうなったのだろうか。
〈土地と家屋の値段が下がる。テーベの場合と同じく、演奏で壁が建てられた豪華な劇場も貸しに出された。(中略)建築業はまったくだめになり、職人たちには仕事がない。(中略)残った者もつつましく、日々の生活にただあくせくとしている〉
この話は、金融危機を受けて緊縮策を打ち出した先進諸国が今経験していることとそっくりだ。マンデヴィルは、今の時代を予言した本物の予言者だったのだろうか。
『蜂の寓話』は多くの支持者を得る一方、大きな論争を巻き起こした。それは今日まで続いている。欧州をはじめとする世界中の国々の政府が緊縮策を採り、また個人が支出を切り詰めることによって、世界が不況に突入するおそれが出てきた。
緊縮策に関するマンデヴィルの見方が正しいかどうかを、どのように判断できるのだろうか。理論を長い韻文型式で表現するという彼の手法では、現代人は納得しない。