庵野は推定資産7000億円強を持つ外食業界最大手企業の天宮寺丈洋(79)社長から「一族の」プライベートバンカーを任される。依頼主が困りごとを口にすると、「お預かりいたしましょう!」の決め台詞で仕事を引き受け、難題をコメディータッチで痛快に解決していく。
テレビ朝日制作部プロデューサーの秋山貴人氏は、ドラマ作りでは常に「新しく面白いキャラクターを考えている」と言う。「この時代に金融知識を操りながら、物事を進めていくキャラクターがいたらいいなと思った」とドラマ制作に至った経緯や庵野の人物像設定について語った。
「金融知識」操る主人公
日本は今、少額投資非課税制度(NISA)の拡充や株価上昇を背景とした投資ブームにある。日本証券業協会によると、2024年に主要証券10社のNISA口座を経由した投資額は合計12兆8363億円に上り、23年の3倍超に達した。その一方で投資経験の浅い人を狙った投資詐欺も増加している。
秋山氏は、お金に興味はあっても「何から学べばよいのか、きっかけがつかめなかった人に、こういう世界もあるんだと楽しんでもらえれば」とドラマの意図を話す。制作に際してはリサーチの一環で、現役のプライベートバンカーや日本の大手証券社員、会計士、元国税庁関係者、富裕層と対話したという。
日本の富裕層は増加している。UBSグループのリポートによると総資産100万米ドル(約1億5000万円)超の富裕層は23年で約280万人。米国の2200万人弱を大きく下回るが、フランスやドイツとほぼ同水準。UBSでは28年までに360万人程度に増えるとみている。日本の銀行や証券会社もウェルスマネジメント業務を強化している。
「プライベートバンカー」は投資を指南するドラマではない。しかし、テレビ朝日の秋山氏によると、庵野は金融を勉強しないと富豪たちの考えにはめられて生きていくことになるという意識を登場人物らに「植え付ける役割」を担っている。劇中で庵野は時にホワイトボードも使って金融の仕組みなどを解説する。
第1話で窮地に陥る団子屋の女性社長は、腹違いの兄弟と悪徳銀行員に仕掛けられた投資詐欺などにより、遺産の相続権を失う。庵野はだまされた社長に「金融知識に乏しいあなたは、まんまとその餌食となった」と反省を促す。彼女は自らの問題を庵野と一緒に解決した後も、金融知識などを身に付けたいという気持ちから庵野の助手となり、行動を共にする。