セブン&アイの買収、経済安保の視点を忘れるな 元国家安全保障局長が説く、食料や雇用への影響

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カナダには「カナダ投資法」があり、安全保障関連の審査だけでなく便益関連の審査も行われる。一定金額を超える外国投資は事前申請と当局の承認が必要で、カナダにとって「純便益」があるかどうかが判断基準となる。純便益を基準とした判断の後には、食料安全保障を理由とした審査が行われる可能性がある。

日本の外為法はこのままでよいのか?

カナダ・ケベック州は自州の会社の本社を維持したい傾向が強く、政治的要素が買収審査に影響する。一方、日本の外為法には便益関連の審査がなく、安全保障関連の審査も限定的である。セブン&アイは大量の個人情報を保有しているためコア業種に指定されているが、食料安全保障を理由とした業種指定はない。

現行の枠組みでは、ACTによるセブン&アイの買収が否定される可能性は低い。カナダでは食料安全保障や便益の有無で買収が不許可になるが、日本の外為法にはそのような規定がない。今回の事案を契機に、国家安全保障の観点から外為法の改正が求められる。

日本のセブン-イレブンは、とくに地方においては、なくてはならない社会インフラとしての機能を有していることを強調しておきたい。まず、地方の雇用創出に大きく貢献している。全国に約2万2000の店舗があり、加盟店オーナー・従業員は40万人を超える。さらに、取引先のフレッシュフード工場や配送センターなどのサプライチェーン網全体で約11万人の雇用を生み出し、グループ全体で60万人の雇用を支えている。

次に、行政サービスや金融インフラ機能の提供だ。全国の店舗でマイナカードを活用した各種証明書の発行や公共料金の支払い代行を行っており、地域住民の利便性を向上させている。また、自治体との連携により地域活性化や地域課題解決に貢献している。例えば、移動販売やお届けサービスを通じて買い物困難者を支援している。さらに、セブン銀行のATMは全国に約2万7000台設置されており、地方における金融インフラとして重要な役割を果たす。

防災・災害対応としても、セブン&アイは指定公共機関に指定されており、災害時には物資支援や帰宅困難者への支援を行っている。大規模災害時には、全国のサプライチェーン網を活用して迅速な商品供給を実現している。東日本大震災の際には、被災地への商品供給を周辺エリアの工場から行った事例がある。

セブン&アイがACTに買収されれば、地方店舗の閉鎖が進み、地方の雇用や経済、行政サービス機能が低下する懸念がある。これにより地方の課題が深刻化し、地方創生の理念に逆行する懸念が生ずるだろう。

ACTによるセブン&アイ買収により懸念される数々の問題点について言及してきたが、株式時価総額が6兆円を超える大企業がM&A提案の対象となった事実は重い。国境を越えた大型M&Aの波はこれからも訪れるだろう。国際的な注目度も高い中、セブン&アイの特別委や取締役会は、多様なステークホルダーにとって最良の未来を目指し、丁寧かつ真摯に検討することが重要だ。

北村 滋 元国家安全保障局長

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きたむら しげる / Shigeru Kitamura

1956年生まれ。東大法卒、1980年に警察庁入庁。2006年に安倍首相秘書官。2011年に内閣情報官。2019年に国家安全保障局長。2020年米国政府から国防総省特別功労章を受章。現在は北村エコノミックセキュリティ代表

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