セブン&アイの買収、経済安保の視点を忘れるな 元国家安全保障局長が説く、食料や雇用への影響
ここで、世界各地で積極的な買収提案を行うACTとはそもそもどんな会社なのかをおさらいをしておこう。ACTはカナダに本社を置き、約30の国と地域でコンビニエンスストアやガソリンスタンドを展開するグローバル企業である。1980年にケベック州ラヴァルで最初のコンビニエンスストアをオープンし、現在は1万6000を超える店舗を展開している。「クシュタール」や「サークルK」などのブランドを持ち、カナダでは道路輸送燃料小売りでもリーダー的な立場にある。
成長への意欲は強く、2004年以降、積極的なM&Aを繰り返してきた。しかし買収した店舗数の半分を超える店舗を閉店していることから、「大量獲得するが、不採算店舗は大量閉店する」という志向があると考えられる。フランチャイズの店舗比率は低く、そこは100%近い日本のセブンーイレブンとは大きく違う。
セブン&アイがACTに買収されれば、利益率が低い店舗は閉店に追い込まれる可能性があるため、日本セブンーイレブンの加盟店オーナーに不安を抱かせ、訴訟リスクも懸念される。日本のセブン-イレブンは加盟店オーナーとの共存共栄を目指しており、契約更新率は90%以上である。ACTによる買収は、この日本独自の強みを失わせる可能性がある。
買収が実現すれば、食料安全保障上の懸念が生じる
セブン・アイの買収をめぐっては、わが国の食料安全保障の観点からの議論も重要である。セブン&アイは2023年度においてグループのコンビニ・スーパーの食品売上高は4兆6000億円を超え、国内食品市場で約10%のシェアを占める。ACTがセブン&アイを買収すれば、国内食品市場の約10%を外資企業が握ることになり、広範なサプライチェーン全体に影響を及ぼし、食料安全保障上の重大な懸念が生じる。
具体的には、食の安定供給、食の安全・安心、食文化への影響が挙げられる。外資企業の合理化・効率化による海外調達への切り替えが進めば、国内メーカーや生産者の衰退が助長され、食料自給率の低下や有事の際の食料調達リスクが拡大する可能性がある。
また、食の安全・安心に対する考え方が異なるため、「日本の食」が脅かされる懸念もある。さらに、地産地消の食文化が脅かされ、日本独自の上質な食に対する影響も懸念される。セブン&アイはフレッシュフードにおいて国産原材料の積極的な活用を推進し、GAP認証を取得した農作物の取り扱いを拡大している。一例を挙げれば、福島県産の農産物を使用した商品を発売し、地産地消や地域経済の活性化に努めている。
ACTによる買収が実現すれば、これらの取り組みが失われる懸念があり、効率化を追求する海外調達への切り替えにより、全国のセブン-イレブン店舗で画一的な商品が陳列される可能性がある。上述したような事態が生じれば、わが国の食料安全保障や食文化、地域の衰退が懸念される。
上記のような安全保障の観点を論じるにあたり、日本の「外国為替及び外国貿易法(外為法)」の問題点も指摘しておかなければなるまい。日本とカナダの外資規制には非対称性があり、カナダの規制は日本より厳しい。
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