苦境に立つ野村ホールディングス、脱「リーマン」へ転換
メガバンク傘下なら喪失する野村の強み
市場内では、野村の株価低落(時価総額は一時1兆円割れ)、信用不安を背景に、「野村がメガバンクの傘下に入るのでは」との憶測もある。野村首脳は「うちが買収されるのなら、株価はもっと上がっていなければおかしい」と一笑に付す。旧財閥系のメガバンク傘下に完全に入れば、系列に関係なく“全方位”で企業との取引関係を築いてきた独立系としての野村の強みは失われる。「メガバンク傘下に入る経済合理性は国内においては極めて低い」(野村首脳)。
すでに傘下に証券会社を抱えるメガバンクにとっても、野村の国内での圧倒的な営業基盤はうらやましい限りだが、「規制強化など業界を取り巻く環境が厳しくなっている中で、野村を吸収することは多大なリスクを抱え込むことになる」(メガバンク幹部)。銀行と証券のカルチャーも異なり、普通なら考えにくい。
ただ、もし野村が収益力改善に失敗し、格付けが投資不適格まで落ちた場合、新たな対応策が必要だろう。一つは、思い切って海外を縮小し、日本直結のビジネスだけに戻す。そうすればリスク量が低下し、余剰資本が生まれる。
もしくは、海外業務を維持するために、信用補完策としてメガバンクや大手生命保険会社、外資などの一部出資を要請する選択肢も考えられる。金融危機後に米モルガン・スタンレーが三菱UFJフィナンシャル・グループから議決権のない優先株(現在は持ち分22%の普通株へ転換)による出資を仰いだような形である。もちろん、野村はこうした事態は絶対に避けようとするだろう。
かねて野村にとって海外は鬼門。何度も失敗を重ねた。リーマン買収も無謀な賭けと見られたが、渡部賢一CEO、柴田COOが断行。それ自体、批判できないが、結果的に重大な試練に直面している。
08年度に7000億円強もの巨額赤字を出しながら、乗り切れたのも、既存株主を犠牲にして2度の大規模増資を実行できたからだ。本来その恩返しをすべきだが、業績不振と公募価格を下回る株価低迷でさらなる損害を与えている。環境面での誤算も含め、責任は免れられず、経営体制ともども抜本的な見直しを迫られている。
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(中村 稔 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2012年2月4日号)