コンクリートの打設作業では、まず鉄筋を組みあげ型枠で囲って準備をする。現場でコンクリートを練り、この型枠に流し込む。ここは時間との勝負だ。
装飾を施すときは型枠に細工する。彫り物をしたり、パネルを切って曲げて型枠にしたり、岡さんは思いつくたびに即興で形にした。この過程で、農業用ビニールを用いたアイデアを思いつき、装飾はさらに進化する。
これは、ビニールで型枠をくるむ方法で、コンクリートに水分がしっかり保たれてより頑丈に固まるという。透明なので状態がわかり、型枠を剥がしやすい利点もあった。こうしてユニークな形や複雑な紋様など、豊かな装飾が生み出されていった。
ちなみに通常の現場では、コンクリートの型枠には、ベニヤ板を重ねた「コンパネ」が使われている。しかし20代のころに現場仕事を多く経験した岡さんは、コンパネの防腐剤の影響で化学物質過敏症に。代わりとなるものを探し求め、農業用ビニールにたどり着いたのだ。
山ぶどうの蔦やお弁当の容器も利用
蟻鱒鳶ルの装飾にはあらゆるものが使われている。山ぶどうの蔦(つた)やお弁当の空き容器、廃棄する予定だった波板、竹細工の人間国宝の竹籠などだ。これらをコンクリートが固くなる前に型押ししたりすることで、壁一面に不思議な模様が生まれた。
「やりだしたら、だんだん上手になったんです」と岡さん。階を上がるごとに複雑で細かな装飾が増えていく。その変遷が面白い。
もちろん事前に設計図を引き、構造計算も行っているが、現場で即興的に作る部分も多い。装飾は「時間ができたから」「面白い素材があったから」と、岡さんや手伝う仲間たちが作っていく。リアルな場だからこそ、図面では考えつかない表現が空間に生まれていく。
「装飾は、建築家やデザイナーが考えるものではなく、日々現場で作業をしている職人さんの領分だと思っています。職人さんたちが『こんなことをしたらちょっといいんじゃね?』とニヤリと考える。『この家に住む人たちがみんな幸せになりますように』と祈りを込めてかわいらしい彫り物をする。現場で手を動かす職人さんたちが生み出すものが装飾だと思うんです」
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