福島に旅立つ健一さんに美晴さんは「急でごめんね」の一文から始める美しいラブレターを渡した。しかし、健一さんからは何の返事もなかった。なぜなのか。
「嬉しかったのですが、何と答えたらいいのかわかりませんでした」
ポツリポツリとしか話さない健一さん。女性と付き合った経験は学生時代のみで、就職氷河期で定職に就けなかった負い目もあって恋愛や結婚からは遠のいていたと語る。アルバイトで貯めたお金でオーストラリアなどでのワーキングホリデーを楽しんでいた時期もある。
「そんな自分は結婚対象にはならないと思っていました。友だちはいるので、ときどきワイワイガヤガヤできれば十分です」
5年後の告白
福島での仕事は給料の不払いがあって2カ月で打ち切り、戻ってきた地元に腰を下ろす覚悟を決めた健一さん。父親の死という大きな出来事にも直面した。
「父ととりわけ仲が良かったわけではありません。でも、家族が1人いなくなってしまったのはショックでした」
男友だちは気を遣って放っておいてくれた。一方で、美晴さんからは久しぶりに連絡が来た。「お父さまのことを聞いたよ。大丈夫?」と。
「葬儀のことでいっぱいいっぱいだったのでほとんど返事ができませんでした。でも、気を遣ってくれたことがありがたかったです」
半年後、健一さんのほうから美晴さんを「どっかに行こう」とデートに誘った。しかし、美晴さんは素直には受け入れられない。5年前の手紙に返事をもらっていないからだ。
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