楽天が手を伸ばす「お試し割」というパンドラの箱 通信業界は嵐の前の静けさ、市場が荒れる懸念も

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長年、事業者間の競争を促して携帯料金低廉化を図ってきた総務省にとっては、「第4のキャリア」として成長する楽天の存在は重要性を増しているといえる。低価格プランを引っ提げてキャリアに参入した楽天は、その直後の2021年に官製値下げが進み、出鼻をくじかれる形になった。財務危機も続いてきただけに、3社による寡占市場への逆行を回避させたい総務省の思惑も透ける。

もっとも、今後は楽天だけでなく、競合3社の動向も焦点となる。

足元では、シェア低下が続いてきたドコモが反転攻勢に乗り出すなど、通信市場の競争環境は激化しつつある(詳細はこちら)。楽天が先陣を切ってお試し割引を導入した場合、そのインパクトが大きければ、対抗策を打ち出すキャリアが現れそうだ。総務省の会議でも、「楽天がお試しSIMを配り始めたら、どこかが追随して結局全社がやり合うことになると、市場が再び荒れるのでは」(野村総研の北俊一氏)との見方が出ていた。 

“チキンレース”に陥る可能性も

通信回線をワンプランで提供している楽天に対し、競合3社はメイン、サブ、オンライン専用といった分類で、異なる料金プランを展開するのが特徴だ。今回の制度改正では、料金を割引できる期間、そして金額の上限が決められている。どのブランドでどの程度の期間や割引額を設けるか、各社が互いの腹を探り合う「チキンレース」に陥る事態も予想される。

3社がお試し割引を導入する場合、最も想定しやすいのは、ドコモの「ahamo(アハモ)」といったオンライン専用プランでの施策だ。データ量30ギガバイトを月額3000円ほどで各社提供しており、楽天のプランが意識される料金水準にある。

一方、3社の間でも状況は異なる。KDDI、ソフトバンクと違って、ドコモは競争力のあるサブブランドを持たない。お試し割引の考え方をめぐって濃淡が出る可能性もあり、前述のキャリア関係者は「ウチはしばらく他社の様子見だ」と明かす。

総務省も、お試し割引が始まれば、利用者や販売代理店の混乱を招いたり、格安スマホ業者に悪影響をもたらしたりする懸念があるとして、市場の動向を注視する。設定した割引期間を合理的に説明できるようキャリアに求めるなどしているが、「実際に始まらないと影響はわからない。ハレーションが大きければ、すぐ制度を見直すこともありうる」(総務省料金サービス課の担当者)。今後、割引を導入したキャリアから意見聴取を行ったうえで、競争促進効果を検証する方針だ。

新制度の解禁後も市場に与える影響を見通せないまま、いまだ均衡状態が保たれている通信業界。順当に楽天が口火を切ることになるのか。嵐の前の静けさが漂ったまま、新たな年を迎えている。

茶山 瞭 東洋経済 記者

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ちゃやま りょう / Ryo Chayama

1990年生まれ、大阪府高槻市出身。京都大学文学部を卒業後、読売新聞の記者として岐阜支局や東京経済部に在籍。司法や調査報道のほか、民間企業や中央官庁を担当した。2024年1月に東洋経済に入社し、通信業界とITベンダー業界を中心に取材。メディア、都市といったテーマにも関心がある。趣味は、読書、散歩、旅行。学生時代は、理論社会学や哲学・思想を学んだ。

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