楽天が手を伸ばす「お試し割」というパンドラの箱 通信業界は嵐の前の静けさ、市場が荒れる懸念も
楽天モバイルの契約数は2023年以降、右肩上がりを続け、とくに2024年は大躍進を遂げた。
2023年末時点での全契約回線数は652万件だったが、2024年11月10日時点のデータでは、812万件まで急拡大している。楽天市場の出店事業者などを対象に訴求を図ってきた法人向けが牽引しているとみられるが、個人向けも年齢層に応じたポイント還元プログラムなどが奏功して好調だ。ただ、国内の個人向け市場は飽和しつつあることから、このペースを維持したままでの契約拡大は険しい道のりでもある。
総務省の調査では、消費者が通信事業者の乗り換えを検討するに当たり、「通信品質に不安がある」といったサービス面の懸念が乗り換えをためらう要因になっている。2020年にキャリア事業に本格参入した楽天は、「安いが、つながりにくい」といったイメージを持たれがちだった。
しかし直近では、通信品質の改善を着実に進めている。品質を評価する第三者機関、Opensignal社が2024年10月に出したレポートでは、通信規格5Gの上り・下りの速度など、全18項目のうち3項目で業界首位を獲得。エリアはまだ局所的だが、つながりやすい電波「プラチナバンド」の展開も開始した。ユーザーが気軽に品質を試せる機会を提供できれば、契約拡大の起爆剤になる可能性がある。
「お試し割引」を総務省が認めた理由
業界全体でみると、今回の制度改正は、「攻める」立場の楽天にとって、明らかに有利に働く施策といえる。それだけに、競合キャリアなどは総務省に対し、「顧客獲得競争を激化させないか継続検証が必要」「見直しは必要十分な最低限の範囲にとどめることが重要」との要望を出していた。
料金の割引を狙って消費者が次々とキャリアを乗り換える「ホッピング」と呼ばれる行為が起こる懸念もあり、有識者からは「割引期間を最長6カ月とするのは長すぎでは」との指摘が上がったが、ある競合キャリアの関係者は「最終的に、楽天側の意向が押し通される形になった」と振り返る。なぜ、総務省は思い切った制度見直しに踏み切ったのか。
総務省の報告書では、「携帯電話市場の寡占状態は継続し、通信料金の消費者物価指数が1年前と比べ10%以上上昇する状況に鑑みれば、事業者間のさらなる競争促進が重要」と指摘している。楽天の契約が急拡大中とはいえども、通信業界では依然、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社のシェアが圧倒的だ。
総務省によると、携帯電話の契約数シェアは2024年6月時点で「大手3社」が8割超を占め、キャリアから回線を借りて事業運営する格安スマホ業者(MVNO)が計15.2%、楽天は3%にとどまる。
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