原油「混迷の1バレル=50ドル時代」は来るのか 一方で「100ドル突破」のリスクも払拭できず
サウジの増産観測は「ならば、いっそのこと価格下落を受け入れても生産を大幅に増やし、顧客を奪い返したほうが石油収入も増えるのではないか」という考え方が背景にある。現在、生産が伸びているのは、アメリカではシェールオイル、カナダはオイルサンドなど、どれもコストの高い油田からの生産増によるものである。
もし増産によって今後価格が大幅に下がれば、こうした高コストの油田からの生産は採算が合わなくなるために減少する可能性が高く、結果的には相場の下支えとなるとの思惑もあるのだろう。12月の決定では増産が見送りとなったが、今後サウジが方針を転換、増産を強く主張する可能性は否定できない。そうなれば、他の産油国も追随せざるをえず、需給は一気に緩んでしまうことになるだろう。1バレル=50ドルあたりまでなら、簡単に値を崩してしまうのではないか。
1バレル=100ドル超えの懸念も消えず?
ではこの先、本当に相場は低迷したままなのだろうか。その点では、やはり中東情勢がカギを握ることになりそうだ。10月初めにイランがイスラエルに対して大規模なミサイル攻撃を仕掛けた一方、同月末にはイスラエルがイランの軍事施設に対して報復攻撃を行ったが、攻撃は限定的だったこともあり、情勢緊迫に対する懸念はいったん後退する格好となっている。
しかし、イランは報復攻撃を行うと警告しており、なお先行きは不透明な状況が続いている。今回のイランの警告は、最高指導者であるハメネイ師の意向との見方もあり、それが本当なら実行に移される可能性は極めて高い。一方のイスラエルはイスラエルで、ドナルド・トランプ氏が次期大統領になるという、強力な後ろ盾を得たことで、今後強硬姿勢を強めることも十分にありうる。
もし、報復攻撃の応酬が続き、イランの石油施設が攻撃を受けて生産が大幅に減少したり、イランがホルムズ海峡の閉鎖に踏み切ったりなど事態が悪化することがあれば、1バレル=90ドル、あるいは100ドル超えも避けられない。
もっともこうした報復攻撃の応酬は、大きなリスクを伴うものであることも間違いない。それなりの強い軍事力を持つ両国が真っ向から殴り合うような戦闘を行えば、被害もかなり深刻なものとなる。現実問題として、そこまでのリスクを取ることはせず、早期に落としどころを探る交渉が始まる可能性も高そうだ。
トランプ次期政権に停戦合意を取りまとめるだけの外交能力があるとも思えないが、少なくとも新政権の誕生が1つのきっかけとなることは十分にありうる。また仮に大きな軍事衝突が起こっても、材料としては出尽くしとなり、その後一気に事態が終息に向かうことも考えられる。こうしてみると、中長期ではやはり、サウジの生産方針や需要の動向がより大きなカギを握ることになりそうだ。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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