「工場なき製造業」を実現するファブレス企業は、低付加価値の生産・組立工程はEMS企業にアウトソースし、自らは開発と販売という高付加価値業務に特化する。それによって利益を追求する。右に述べたことを言い直せば、「アップルはスマイルカーブの両端だけを行っている」ということになる。
この方式をネガティブに見れば、「儲からない仕事は、よそにやらせる。利益が上がる仕事だけをやる」ということになる。生産設備や工場を持たず、従業員を雇わないため、労働争議とも関係がない。労務管理部門などの泥臭い仕事とも無関係だ。また、独自技術の開発や、製造ノウハウの蓄積にも関心がない。製造現場の知恵を製品開発に反映させるという発想もない。現場からの改善提案を重視する現場主義の思想とは異質のものだ。
日本では、このような観点から、ファブレス化に反対する人が多い。『2005年版ものづくり白書(製造基盤白書)』は、次のような調査結果を示している。
(1)日本の製造業で最も利益率の高い工程が「製造・組立」だと回答した企業は44・4%。(2)「販売」との回答は、30・8%。(3)「研究」が最も高いとする企業は、わずか0・7%、「開発・設計・試作」は8・4%。
つまり、日本では逆スマイルカーブが成立しているということになる。しばしば「日本企業は、弱い本社機能に強い現場力」と言われるが、それが裏付けられている。簡単に言えば、日本の製造業は、「モノづくりそのもの」というわけだ。
こうなる理由として白書は、「各部門間の情報共有と調整によって、市場変化に迅速に対応し、最適な部品調達と生産管理が行われているためだ」としている。1980年代の末に『メイドインアメリカ』が日本の製造業を絶賛したのと同じ発想だ。