深刻なプラスチック汚染、生産自体に総量規制を 汚染研究の第一人者が期待する条約制定

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――どのようなメカニズムによって体内に取り込まれているのでしょうか。

紫外線などで劣化して細かくなったプラスチックが環境中に流出し、雨に洗われ、海に漂ううちにさらに細かくなり、魚や貝に取り込まれた後に、食を通じて人体に入り込んでいる。あるいは大気中に漂っている微細なプラスチックが呼吸を通じて体内に取り込まれるケースもある。また、ペットボトル飲料や市販の弁当などにもナノプラスチックが多く混入している。

たかだ・ひでしげ/1959年生まれ。東京農工大学教授。専門領域は環境化学、環境科学。現在の研究テーマは人為起源有機化合物の環境動態。1998年からプラスチックと環境ホルモンの研究を開始し、2005年以来、International Pellet Watchを主宰(撮影:筆者)

そうした問題の深刻度はまだ研究途上だが、体内に入らないように予防的な対策を講じる必要があるとトンプソン氏は主張している。

――高田さんは、プラスチックに含まれる添加剤への懸念を指摘しています。

プラスチック製品は強度を持たせるために、添加剤が使用されている。この添加剤も、人の血液や尿、母乳などから検出されている。

プラスチック製品の場合、添加剤はプラスチックの分子の鎖の間に取り込まれる形になっていて、簡単には環境中に漏出しないとみられてきた。しかし、紫外線が当たったりしてその鎖がほどけ、プラスチック中の添加剤が環境中に出てきて、生物に取り込まれている。

実はそうした添加剤の人体への取り込みの事例は、マイクロプラスチックやナノプラスチックよりも多い。すでにいくつかの疾病との関係も指摘されている。

化学物質の国内規制だけでは不十分

――どのような事例がありますか。

ビスフェノールAというプラスチックの添加剤がある。これが女性の血液中から見つかっている。子宮内膜症の患者さんで検出例があるということと、健康な人の場合には検出されていないことから、子宮内膜症の発症とビスフェノールAの関係が示唆されている。内分泌撹乱化学物質であるということで、自主規制が行われているが、使用禁止にはなっていない。

また、ビスフェノールSなど少しだけ構造が違うが同じように内分泌撹乱作用を持つものへの置き換えも行われている。人への影響という点では意味のない代替だ。

――最近では、インターネット通販で購入した海外の製品から有害な化学物質が検出される事例が、韓国などで報告されています。

化学物質については、「化審法」(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)という日本国内の法律で規制されるとともに、国内のメーカーが使用を自粛しているケースもある。

しかし海外から入ってくる製品にそれが含まれていることもある。

たとえば、私たちが一昨年に調査した事例だが、日本で販売されていた中国製の土のう袋の素材に、UV328という紫外線吸収剤が含まれていた。当時、日本のメーカーはすでに自主規制をしていたため、日本製には入っていなかったが、中国製には含まれていた。

私たちの研究室では土のう袋の一部を切り取って有機溶媒に溶かし、質量分析計で特定の紫外線吸収剤が含まれていないかをチェックした。抽出だけでも1週間を要したが、UV328が検出された。私はそのことを国際会議で報告し、それも一因となって有害化学物質を規制するストックホルム条約でUV328は使用禁止となった。

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