深刻なプラスチック汚染、生産自体に総量規制を 汚染研究の第一人者が期待する条約制定

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――ストックホルム条約でUV328の生産や使用が禁止されたことで、事態は改善に向かうのでしょうか。

UV328についてはそう言えるが、同じように懸念されている化学物質がまだ、数百、数千というオーダーで存在している。一つ一つ、その有害性を調べていては間に合わない。

そこで、プラスチックそのものに網をかけて、全体の生産量や使用量を減らしていく必要がある。そうすれば、懸念のある化学物質への曝露を抑えることもできる。その点からも、新たな条約でプラスチック生産量の総量規制が盛り込まれることを期待している。

――その場合、どういった種類のプラスチックを規制する必要があるとお考えですか。

ポリプロピレンやポリ塩化ビニル、ポリスチレンといったプラスチックの生産を減らす必要があると私は考えている。こうした素材は、耐久性がないので添加剤なしでは製品として成り立たない。

ポリプロピレンはおもちゃや自動車部品などに使われ、かなり多くの添加剤が含まれている。塩化ビニル樹脂にはフタル酸エステルという添加剤が多く用いられていて素材を柔らかくする役割を果たしている。フタル酸エステルの健康リスクとしては、子どもの性的早熟や、性的成熟の遅れなどが指摘されている。

何を優先的に規制すべきかについては、研究者やメーカーなど立場によって異なるとみられるため、それを決めるための中立的な委員会を作るべきであると、科学者の連合である“The Scientist's Coalition for an Effective Plastics Treaty"では提案している。私もそのメンバーの一人である。

リサイクルでは問題は解決しない

――プラスチック製品にはさまざまなものがあります。どのような製品の生産や使用を優先して規制すべきでしょうか。

容器包装などの使い捨てのプラスチックにターゲットを絞って優先的に減らすことで合意を図るべきだ。使い捨てのプラスチックは環境中への流出の可能性が高いためだ。医療用途などと比べて不要不急のものも少なくない。

――日本政府は、生産制限そのものには消極的な一方、プラスチックのリサイクルの重要性をこれまで強調してきました。

懸念のある化学物質を含む製品をリサイクルすることには合理性がない。日本ではともすれば、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)=リサイクル」として語られてきたが、国際的な認識は必ずしもそうではない。生産の総量を減らすことを優先し、どうしても必要なものについては有害な化学物質が検出されないように留意しつつ、リサイクルするといったことが重要だ。

廃棄物管理のヒエラルキーとして語られているように、まずいちばん上位に来るのがリデュース(削減)で、その次がリユース(再利用)、さらにその次にリサイクル、焼却による熱回収、埋め立てといった順序になる。

そして「拡大生産者責任」を徹底させ、メーカーが生産から消費、廃棄に至るプラスチックのライフサイクル全体に費用を含めて責任を持つようにすべきだ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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