「富士山登山鉄道」、山梨県がLRTに代わる新案構想 ゴムタイヤで道路を走る「電車のようなバス」

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CRRC製のARTは架線システム、リチウム電池、水素燃料電池など多様な動力源に対応しているが、県は「水素エネルギー開発の最先端を走る」と自負しており、水素燃料電池で走行させたいと考えている。水素燃料電池で走るバスはすでに実用化されており、同じく、列車でもJR東日本が実証運行をしている。現在の富士山5合目で使われる電力はふもとから運んだ重油を燃やして発電機を動かすことで対応しているが、水素発電所を建設して、その電力をARTだけでなく5合目にある諸施設にも供給できれば環境負荷の削減にもつながる。

長崎知事は11月13日に富士山登山鉄道構想に反対する3団体を県庁に招き、「意見を伺う会」を開いた。各団体はLRT導入に対して「大規模な開発は環境を傷つける」「EVバスで十分」といった反対意見を表明したが、長崎知事は「来訪者コントロールの必要性をどう考えるか」「開発禁止は程度の問題なのか、スバルラインにまったく手を入れてはいけないのか」「環境負荷がないなら、EVでなくてもよいか」といった質問を3団体に投げかけ、積極的な意見交換を行った。

「LRTありきではない」知事の意志

3団体の出席者たちからは、「知事がわれわれの意見を一方的に聞いて終わりと思っていたら、意見のキャッチボールができてうれしい」といった声が聞かれた。この日はART案については話題にのぼらなかった。おそらく、今回の3団体から出された意見を取り入れて、反対派からも受け入れられるような案を練り上げていくのだろう。

一見良いことずくめに思えるARTには未知数の部分も多い。何より、世界の都市で運行実績があるからといって、富士山という過酷な条件下で問題なく運行できるかどうかはわからない。たとえば、降雪により道路に雪が積もった場合、マーカーを読み取ることは可能なのかといった問題だ。そのため、LRTに続き、ARTでも技術的な課題を洗い出す検討会の設置は必須である。

さらに、この新たな交通モードを住民に提案すれば、あらぬ方向から厳しい意見が出る可能性もあるだろう。ただ、少なくとも「LRTありきではない、住民の意見も聞きながら決めたい」という長崎知事の言葉に今のところうそはないようだ。その一例が、県の知事政策局に設置された「富士山登山鉄道推進グループ」という組織が3月末で廃止され、4月から「富士山保全・観光エコシステム推進グループ」が発足したことだ。「鉄道」という名前が消えたことに知事の強い意志が感じられる。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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