セブンの「リベンジドーナツ」、実は副産物だった? 7年ぶりの挑戦の裏には意外なドラマがあった
きっかけは2015年。当時のセブン社内ではこんな議論が行われていた。「セブンプレミアムの『金の食パン』(2013年発売)があり、イースト発酵生地には強みがある。店頭にフライヤーもあり、揚げたてという付加価値も提供できる。アメリカンドッグ以外にも、生地系のファストフードが提供できるはずだ」。
その中で俎上に載せられたのが、今や定番商品になりつつある「お店で揚げたカレーパン」(2021年発売)。金の食パンを手がける武蔵野グループはカレーも製造しており、素材面で差別化できるとの狙いがあった。
しかし、ヒットへの道は平坦ではなかった。課題の一つは設備だ。揚げたてを提供するには、揚げる前の半製品を冷凍状態で店舗に運ぶ必要がある。委託先のパン工場には食材保管用の冷凍庫はあるものの、製造ライン上で急速に冷凍する設備がなく、数量や品質を保つことが難しかった。
最終的にメーカーの協力のもとで設備投資に至ったが「最初は工場の端っこで生産を開始した。売れる保証がない中での投資で肩身は狭かった」(米田氏)という。
素材の配分も試行錯誤が続いた。工場の生産が軌道に乗り、取り扱い店舗数も増えていったが、店舗当たりの販売数量は1日数個と伸び悩んでいたからだ。出来たてを訴求するファストフードは、少なくとも1日10個程度の販売を維持できなければ品質を保てない。
粉の改良が当たり、ギネス級のヒット
「出来たてカレーパンのポテンシャルはこんなものではない」。7000店まで販売を広げていたが、セブンは改良のために販売を一時中止。材料や製造工程を見直すことになった。
とくにこだわったのが香りだ。通常、カレーは製造後にしばらく寝かせて具材のうまみを溶け出させるが、製造からすぐに生地へ詰め、冷凍する方式に変更した。中身のカレーを出来たての状態で維持することで、一口目からスパイスが香るようにした。
これが当たった。東京都、神奈川県、静岡県で再びテスト販売をしたところ、販売数は従来の3~4倍に伸長。委託先工場の拡大など製造体制も拡充し、2022年12月には全国販売を開始した。
2023年の年間販売数は7698万個を達成。今年、「最も販売されている揚げたてカレーパンブランド」としてギネス世界記録にも認定された。新たな消費者のニーズを捉えた商品といえるだろう。
こうしたカレーパンでの苦労と大ヒットが、かつて撤退したドーナツの再挑戦につながっていく。
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