「世界の鉄道をAIで変革する」日立の野望と現実 保守作業が劇的改善するが導入費用がネック?
CBMの考え方自体は1970年代から存在していたが、センサーやコンピューターなどの導入費用が高額であることや、データ通信速度が遅い、解析技術が不十分といった理由からなかなか普及しなかった。しかし、近年はデジタル技術やIoT技術の急速な発達により導入費用が安価になり、さらに高い学習技術や解析機能を持つ人工知能(AI)が登場し普及への環境が整いつつある。
鉄道業界では、例えば東海道・山陽新幹線のドクターイエローに代表される検査車両が架線や線路の状態をチェックしている。しかし、ドクターイエローの走行は約10日に1日であり、在来線の検査車両となるとその頻度はさらに下がる。そこで、鉄道各社の間では営業車両にセンサーを搭載して、営業運行しながらインフラを点検するという動きが進む。これなら検査頻度を増やすことができる。JR東日本は山手線E235系の車両を使って線路や車両のCBMを行っている。
日本に限らず、欧州でも鉄道業界の人手不足が指摘されており、近年はストライキによる列車の遅れも目立つ。人手に頼る作業を機械に置き換えるという点でCBMのメリットは大きい。
リアルタイム解析で故障の予兆発見
日立の今回の発表のポイントは2つある。まず1つ目は、これまでにも日立はデジタルを活用した鉄道の保守サービスを行っていたが、今回のタイミングで「HMAX(エイチマックス)」というソリューション群にまとめ直したということだ。エイチマックスはすでに欧州で走る2000編成、8000両の日立製車両に導入済み。イノトランスで展示したETR1000にもパンタグラフ部にカメラが、台車部には振動を検知するセンサーが設置されている。
AIはデータを蓄積すればするほど学習効果が高まっていく。従ってエイチマックスを導入する鉄道事業者の数が増えれば増えるほどAIは頭が良くなる。「ある顧客のデータをそのままほかの顧客に横流しするといったことはしないが、機械学習による改良により、エイチマックスは成長していくので、エイチマックスを導入したすべての顧客がメリットを受けられる」というのが日立の説明だ。さらに、人間が目で見るよりもAIのほうが検知力は高く、日照時間帯や気象条件にも左右されない。精度は飛躍的に高まるという。
2つ目のポイントがエヌビディアとの協業だ。日立は今年3月、エネルギーやモビリティーなどの分野でエヌビディアとの協業を決めており、その一環として、エヌビディアのエッジAIコンピューティングと日立のソフトウェアエンジニアリングを組み合わせた統合デジタルプラットフォームをエイチマックスのラインナップに組み入れ、今回の発表に至ったというわけだ。では、エヌビディアとの協業によるメリットは何か。
「車両の屋根にカメラを載せてパンタグラフと架線の状態を確認することは多くの顧客がやっている。そのデータをクラウドに入れてAIに自動解析させている顧客もいると思う。しかし、このデータの解析には丸1日かかっていた。それがリアルタイムで解析できるようになる」
イノトランスの会場で、日立レール車両部門チーフテクノロジーオフィサーの我妻浩二氏が説明してくれた。エヌビディア製GPU(画像処理半導体)はAI向けに強みを持つ。大量のデータを端末側でリアルタイムに処理できるため、オペレーションセンターには必要な情報のみを送信すればよい。そのため、鉄道事業者がデータ分析結果を得るまでの時間が飛躍的に向上するのだ。
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