「定年後の友達いないおじさん」問題、解決への道 平均年齢76歳「仲良しグループ」の事例に学ぶ
妻と2人暮らし。たまに外に散歩に出る程度で、人付き合いはなかった。遺言書も作り、「その時」に備える日々を送った
ところが――。
体調に問題がないまま、5年の歳月が経過したのだ。気付けば80歳が近い。
「なんだよ、5年経っちゃったじゃないかって。病気のことなんて気にしなくてよかったじゃないか、仕事も辞めて損しちゃった。どうせ余った人生だ、あと何年あるかわからないのだから、何かに使おうと思ったんですよ」
と、その当時を振り返る。
そんな時、あるきっかけで、足立区社会福祉協議会の職員に勧められたのが「てじなーず」だった。
上から目線や人の話を聞かない人はダメ
手品をやった経験はない。というより、手品をするなんて想像したこともなかった。人前に立って、芸をした経験もない。だが、思い切って参加してみると、その面白さにハマってしまった。
「これは楽しいなあってね。現役時代も、仕事を理屈で考えるのが好きだったんだけど、手品のタネも、ちゃんと理屈が通っていて、なるほどって思わされるんですよ」
加入からわずか3カ月で踏んだ初舞台では、人生で味わったことのない緊張感に襲われた。お客さんに目線を送りながら喜ばせたいのだが、手元ばっかり見てしまったという。
「終わって緊張が解けて、ホッとして。でも、お客さんが失敗も楽しそうに笑ってくれるのって、すごくいいなって感じたんですよ。やっぱり、いろいろな人生経験を積んだ人たちの、あったかい反応がね」(佐藤さん)
人生の大先輩たちに、ひとつ、疑問をぶつけてみた。
どうして、仲良くなれたのですか?
率直に聞いてみると、渡辺さんはこう話した。
「80歳になっても、まだ昔の仕事の肩書を言いたがる人がいるけど、僕らはそういうことは一切しないんですよ。手品が楽しい、もっとうまくなりたい。それだけですから」