ノーベル物理学賞に「AI研究者」の選出で波紋 AIと物理学の関係とは? 物理学界隈からは賛否両論

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確かにホップフィールドネットワークに関する論文は、元々は生物物理学の研究に分類されていた。人工ニューラルネットワークは、ニューロンと呼ばれる神経細胞が多数結合したシステムである生物学的な脳の物理的構造および機能からインスピレーションを得ているからだ。その基礎となる数学モデルは、統計物理学で研究されるシステムと似ている。またその挙動は統計力学の技術を用いて分析でき、人工ニューラルネットワークに関する研究だけでなく、物理学における新たな洞察にもつながっている。

AI研究者の受賞を歓迎する声も

多くの人は物理学とAIが直接関係のあるものだとは思っていない。しかし委員会は、研究者たちが「物理学の基本的な概念と方法」に基づいて人工ニューラルネットワークの基礎となるモデルを構築したことを考慮し、より広い視野を持って受賞者を決めたと考えられる。

ホップフィールドネットワーク
ホップフィールドネットワークの概念(写真:Nobel Prize)

実際、2人が物理学賞に選ばれたことを歓迎している物理学者もたくさんいる。ハーバード大学の理論物理学者、マット・ストラスラー氏は「ホップフィールド氏とヒントン氏の研究は学際的で、物理学、数学、コンピューター科学、神経科学をひとつにまとめたものだ。そしてその意味では、彼らの業績はこれらすべての分野に属する」としている。

ボルツマンマシン
ボルツマンマシンの概念(写真:Nobel Prize)

さらに2021年にノーベル物理学賞を受賞したイタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学の物理学者ジョルジョ・パリージ氏は「物理学は近年、ますますその範囲を広げており、過去には物理学に含まれなかった、またそもそも研究されていなかった多くの知識領域が含まれるようになっている」とし「ノーベル物理学賞は、物理学の知識においてさらに多くの領域に広がり続けるべきだと思う」との考えを示している。

物理学とコンピューター科学の融合は、量子力学とAIによっても進みつつある。量子機学械習アルゴリズムは、古典的な手法よりも指数関数的に早く特定の問題を解くことが可能になり、量子物理学の境界を押し広げるのに役立っているという。物理学とAIはいまや互いに助け合う関係であり、これらの分野の境界線がますます曖昧になっていると言えそうだ。

もちろん、AIやニューラルネットワークの利用は、物理学への応用にとどまらない。もっと身近で実用的な分野でも活用されている。たとえば気候モデリングの技術は、高度な機械学習技術を地球全体の物理的な理解に統合して気候の予測を改善している。核融合エネルギーの開発では、AIでプラズマ閉じ込め技術や原子炉の研究を最適化し、商業的に実現可能なクリーンエネルギー源への道筋を開いている。

材料科学の分野でも、AIとニューラルネットワークが、これまでにない特性を持つ新材料の発見を加速させている。量子力学と物性物理学が重要なこの分野では、材料の特性を予測し、実験研究に機械学習のアプローチを活用して大きく様変わりしつつある。

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