米大統領選、トランプとハリス「鉄道政策」の争点 バイデンが進める鉄道復権の動きは継続するか
ただ、この時期も共和党は鉄道建設に対しては反対の態度を取っていた。例えば、ニューヨーク市(マンハッタン島)から西側のニュージャージーへ渡る際にハドソン川を潜る河底トンネルは長い間上下一対しかなく、これを増設する必要があった。オバマの「刺激策」にはこの第2トンネルの予算が組まれていたが、全額ではなく、応分の地元負担が必要とされていた。だが、当時のニュージャージー州のクリスティ知事(共和党)が反対したために計画は進まなかったのである。
もう1人、オバマ政権の副大統領であったジョー・バイデン氏は、2021年に大統領に就任するとコロナ禍で減速したアメリカ経済を再建するための臨時歳出立法を行った。これが2021年の「アメリカ救国法」である。この時は総額で1兆9000億ドルという巨額な歳出が組まれた。鉄道関係としては300億ドルが全国の通勤ネットワーク改善に充てられ、これによって例えばハドソン川河底第2トンネル工事はようやく着工に漕ぎ着けた。また20億ドルがアムトラックへの援助として用意され、施設の改良や車両の更新が進むこととなった。
高速鉄道推進派は民主党左派のみ
この鉄道関係の予算を後押ししたのは、バイデン大統領個人というよりも与党民主党の中の左派と呼ばれるグループである。バーニー・サンダース議員、アレクサンドリア・オカシオコルテス(通称AOC)議員らが率いるこのグループは、厳しい環境政策の推進を要求しており、交通ネットワークに関しては鉄道の復権を切り札としている。彼らの主張は徹底しており、中距離と短距離の国内航空網を廃止する代わりに、高速鉄道ネットワークを拡充せよとしていた。
これに対して共和党は激しく反発しており、バイデン大統領もコロナ禍によるダメージから交通網を復興させるという特別法の趣旨に照らして、この2021年の歳出法では高速鉄道構想には大きな金額が割かれることはなかった。ちなみに、2023年にAOC議員は来日して東海道新幹線に試乗し、その性能と環境負荷の軽減効果を絶賛している。また、若者向けに新幹線の乗り心地についてSNS動画での発信も行った。日本やアジア、欧州では全く常識となっている都市間輸送のための高速鉄道だが、アメリカにおいては、積極推進派は議会でも最も左派のグループに限られるという厳しい状況がある。