ホラーゲームの名作、最新技術で蘇る"心理的恐怖" かつての「独特の空気」を強く感じられる一作

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正直、私はリメイクで「ウォーキングシミュレーター」としての側面を強めるものだと思っていた。ウォーキングシミュレーターは名前のとおり、歩くことをゲームにしたもの。プレイヤーはただ歩くだけだが、それで世界を見て回ったりストーリーを追うことを楽しむわけだ。

実際、『サイレントヒル2』にもそういう場面があるし、本作を「ウォーキングシミュレーター」というジャンルの源流のひとつとみなす人もいる。何より、心理的恐怖を描くのであれば謎解きやバトルはもっと控えめでもよい。

にもかかわらず、なぜリメイク版ではそれを強調したのか。理由のひとつとして考えられるのは、本作を2001年のゲームであることを示すため、あるいは原作らしさを出すためである。

2001年の空気が詰まっている

敵を見つけても、戦う必要がなければスルーしたほうがよい、というのも『バイオハザード』を思い起こさせる(画像:『サイレントヒル2』公式サイトより) 

初代『バイオハザード』が発売されたのは1996年のことである。この作品はブームになり、3Dグラフィックを活用したホラーゲームが日本でも多くの人に認知され、さまざまな方向が模索される。

フォロワーである『サイレントヒル』シリーズは精神的な恐怖にフォーカスした。ジェイムスは妻を失っており、ほかの登場人物も不安や恐怖を抱えており、それがサイレントヒルという世界に反映されてしまうのである。

とはいえ、あくまで『バイオハザード』フォロワーなわけである。謎解きやバトルがなければ、当時あまり注目されなかった可能性があるだろう。

何より、このころからすでにウォーキングシミュレーターの芽生えはあったが、そういう言葉があったわけでもないし、何よりジャンルとして確立していたわけでもなかった。ゆえにリメイクでその文脈を汲み取ったのだろう。

ムービーはキャラクター同士が喋る会話シーンが多め。画的には退屈に見えるのだが、表情の描写が細かいので間が持っている(画像:『サイレントヒル2』公式サイトより) 

また、『サイレントヒル2』の心理的な苦しみの描写からも2001年という時代を感じられる。

現代は精神疾患がミーム化、つまり流行りのものとして消費される時代になっており、一部の層からある種のおしゃれさ・かわいらしさとして捉えられている節がある。そして、その態度はゲームにすらなっている。

もちろん、精神疾患をまじめに取り扱ったゲームもあるし、その描き方も多様化している。心の病に対する考えも今と昔ではいろいろな意味で大きく変化しているし、ゲームによるアプローチもいろいろと変わったわけだ。

『サイレントヒル2』では、霧に囲まれた重く苦しい田舎町で、冴えない人たちが自分の精神に悩まされている。ある者は親に関する悩みを抱え、またある者は自分の立場や容姿を受け入れられない。

その精神を詳細に描くことはしないが、雰囲気でそれを感じさせるのだ。彼・彼女らが語る言葉から全貌が明らかになることはないが、苦しみを抱えていることはよくわかる。リメイク版はキャラクターの表情も秀逸で、各人が抱える苦痛がまさしく顔に表れているかのようである。

『サイレントヒル2』で重要なものは何かといえば、その雰囲気であろう。リメイクで現代風にはなったものの、当時の空気をきちんと拾えているようだ。まさしく、2001年のサイコロジカルホラーを蘇らせた一作といえる。

渡邉 卓也 ゲームライター

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わたなべ たくや / Takuya Watanabe

いわゆるテレビゲームを専門にコラム・評論などの記事を書くライター。大学卒業後はサラリーマンになったが、満足にゲームを遊べない環境にいらだちを覚えて転身。さまざまなメディアにゲーム関連の記事を執筆。駄作に対して厳しく書いてしまうことでも知られる。

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