「ドル高円安」は、年末まで揺らがない リスク回避で最も買われる通貨はユーロに

拡大
縮小

結局、貿易赤字、すなわち「円を売りたい人」が「円を買いたい人」よりも多いという事実がここにきて変化を迫られているわけではない。こうした認識の下、現時点では1ドル=115円超の円高は想定していない。
なお、8.24ショック(約半日で6円の円高)を受けてドル円相場の水準が大きく切り下がったため、年内1ドル=130円の実現は難しい情勢になったと言わざるを得ないが、これは交易条件の改善を享受できるという意味で日本経済にとっては朗報でもある。

強まるユーロの「円」化症状

なお、過去の経験則に従えば、こうした危機モードの時こそ「リスク回避の円買い」で円が全面高になりやすく、そのたびに日本経済は円高・株安に苦しめられてきた。

しかし、今回の混乱を受けて最強だった通貨はユーロであり、「リスク回避のユーロ買い」のごとき展開が見られている。昨年刊行の拙著『欧州リスク:日本化・円化・日銀化』で筆者は「今後、世界経済に何らかのショックが生じた場合に買われるのは円ではなくユーロ(p.26)」と強調し、東洋経済オンラインにも書いてきたが、早くもその傾向は確認され始めている。

ユーロはなぜ強いのか。それはかつての「円」と同様に、世界最大の経常黒字、相対的に優位な実質金利、ネットショートに積み上げられた投機ポジションの巻き戻しによるものであり、これらを踏まえれば、ユーロがほかの通貨に先んじて買われることは至極当然である。

それでも過去1年半余り、ユーロが強烈に下がってきたのは2013年秋以降のECB(欧州中央銀行)における通貨安願望と、2013年春以降のFRBにおける正常化願望が重なった結果、ユーロ売り・ドル買いの「壮大な投機」が盛り上がったからに過ぎない。しかし投機である以上、いつかは買い戻す必要がある。もとより、急騰と背中合わせの急落だったのである。

こうした通貨の上昇・下落パターンは「円」化症状が進行していることの一端を示すものと考えられる。リスクオンムードではキャリー取引や対外証券投資主導で下落し、リスクオフムードではそれらが巻き戻された上に、実需の買いが幅を利かせ上昇する。円の歴史もそうだったはずだ。

ユーロ相場の見通しに関しては、FRBが利上げに対して前向きであり、市場心理も落ち着いていれば、再び「壮大な投機」の下、下値を攻める動きが盛り上がるだろう。だが、FRBの利上げ路線が棚上げになった場合、ユーロ相場は投機的な売りが解消されるに伴って世界最大の経常黒字であることの影響が強くなり、堅調に推移すると思われる。

FRBがハト派化するほどユーロ相場が上値追いとなり、これに応戦するようにECBが緩和を模索するという展開が来年にかけて見られそうである。これもまた、かつての日本銀行の立ち回りを彷彿とさせるものだろう。
 

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT