「ドル高円安」は、年末まで揺らがない リスク回避で最も買われる通貨はユーロに
例年、閑散としがちな8月の金融市場だが、今年は11日の人民元切り下げを皮切りに大混乱に陥った。真っ当に考えれば、人民元切り下げは輸出促進を通じて中国経済の下支えにつながり、市場心理の改善に寄与するはずであるが、市場参加者は「切り下げするほど状況が悪い」と受け取った。日経平均株価、NYダウ平均、独DAX株価指数そしてドル円相場と、主要な金融指標は軒並みリーマンショック級の動揺を見せた。
市場参加者は現状に関し「もはやリーマン後ではない」という臭いを嗅ぎ取っているのかもしれない。過去7年の市場イベントは紆余曲折がありながらも「ポスト・リーマンショック」の枠組みで起きていた。だが、現在及び今後に関しては中国の高成長時代の終焉という「ポスト・チャイナ」の枠組みで起きるものと理解されているのだろう。
目先115円を超える円高はない
こうした状況下、ドル、円、ユーロの主要3通貨をどう展望すべきか。
まず、ドル円相場に関しては、筆者は「今年が円安最後の年となり、来年は円高へ折り返す」というパスを描いてきた。この折り返す理由は、FRB(米国連邦準備制度理事会)が年内にいったん利上げしたとしても、「FRBはドル高を懸念して利上げの手を止めるから」だった。現状を見れば、FRBが懸念する対象は「ドル高」ではなく「中国経済減速」となったものの、利上げの手が止まって、ドル高相場が反転しそうである。メインシナリオが前倒しされつつある。
今のところ、「正常化の虜」となったFRBは過去2年間の市場との対話の成果に執着するように思われ、9月利上げが見送られたとしても、イエレンFRB議長は年内利上げに含みを残す発言をすると思われる。結果、年内はドル高シナリオが辛うじて延命すると予想する。そして、このようなFRBの政策運営を前提とする限り、運用難の状況にある日本の国内投資家は対外証券投資に積極的にならざるを得ないだろう。
なお、原油安により貿易収支が黒字化して円に転換する需要が増え、円高へ向かう展開を指摘する声もあるが、これは過剰な想定に思われる。筆者試算によれば、このまま原油が1バレル=40ドルで横ばいのまま越年しても、貿易赤字の削減効果は9兆円程度に止まり、それだけで貿易収支が黒字転化することはない。また、現在の外需環境を踏まえれば、輸出の伸びから収支が改善するという経路もほとんど期待できない。
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