宮中から実家帰った「紫式部」心がかき乱された訳 その一方で宮中での生活が恋しくなるように

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その不安を和らげてくれたのが源氏物語(以下、物語)を書くことと、人々と文通をして物語の内容について意見を交わすことでした。

疎遠になっていた人にまで、紫式部はつてを求めて声をかけたといいますから、その寂しい心の内が伝わってきます。夫を亡くした紫式部は、物語を媒介にし、人々とつながり、寂しさを紛らわせていたのです。

一方で、紫式部は「今、その気持ちをすべて思い知ることになった身の上の、何と憂わしいことだろう」と思い悩みます。

紫式部は実家で物語を手に取ってみましたが、「昔に見たようには感じられず」とも日記に記しています。かつて物語を読んだときの感動が、今はもうなくなってしまったということでしょうか。

気持ちが落ち込む中で女房仲間が恋しくなる

「昔文通していた友人も、私(紫式部)が女房勤めに出た今となっては『恥知らずで浅はかな女』と軽蔑していることだろう」と紫式部は想像を膨らませています。

そんな邪推をすることも、宮仕えに出たことと同じように恥ずかしいので、友人にはこちらからは連絡できない。紫式部の気持ちはどんどん落ち込んでしまいました。

紫式部が女房勤めをしていることもあり、昔は実家まで訪ねてくれた人も、今はめったにいない。幼い頃から過ごし、慣れ親しんでいるはずの実家。その実家に久しぶりに帰ってきたことで、紫式部は寂寥感を味わい、何度もため息をつくのでした。

そうなると、日頃は煩わしいと思うこともある女房勤め、女房仲間が恋しく思えてくるから、(自身が)現金な人であるとも紫式部は記します。

また大納言の君が、夜々、さまざまな話をしてくれたことが恋しいとも書いています(紫式部は宮仕えを辞めたいと思うことはあっても、女房仲間は好きだったようです)。

紫式部が実家に帰っているときでも、女房仲間から「中宮様が雪をご覧になり、あなたがいないことに大変失望していましたよ」といった内容の手紙が送られてきました。

ほんの少しの休暇(実家での滞在)にもかかわらず、わざわざ手紙を送ってくれるとは。現代人がこれをどう思うか(嬉しいか、煩わしいか)は別にして、宮中ではとても濃密な人間関係が築かれていたといえます。

そして何と、道長の妻(源倫子)からも手紙が送られてきました。そこには、「早く戻ってきてほしい」との内容が書かれていました。さすがの紫式部もこれには恐縮したようで「すぐに戻ります」と返事し、再び、土御門殿に舞い戻るのでした。

光る君へ 大河ドラマ 紫式部
京都御所(写真: hanadekapapa / PIXTA)
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