松下幸之助は「批判」に反論しなかった 聞く心によって「助言」に変わる

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そばで聞いていると、私のほうが「あなたはそうおっしゃるけれど、実際は違いますよ。あなたは松下さんを誤解している。事実を何も知らないで、よくもそんなことが言えますね」と言いたくなることが多かった。

しかし、そのような見当外れの批判に対しても、松下は「なるほど、なるほど」と大抵は、うなずいて聞いていた。自分を批判する者であっても、そこまで大事にした人は珍しいと思う。しかも、ただ単に話を聞いているだけではない。いかなる話をした人でも、その人が帰った後、これもまた必ずと言っていいほど、その人たちを褒めた。

「なかなかいい人やったな」「若いのに、なかなかしっかりした人やったな」「いい話を聞かせてくれた。ああいう先生がもっとたくさんいるとええのになあ」「偉い先生やったな。さすが立派な、まあ、人格者やったな」

「いい意見が聞けた」

褒めるだけでなく、「いい意見が聞けた。ありがたかったな。あの人の言うとおりや」と、感謝の言葉を述べるのが常であった。それも口先だけの口調ではなく、いつも、心から感じ入ったような褒め方であった。

そしてまた、不思議なことに、松下を批判していた人も、私が門まで見送る間に必ずと言っていいほど、「やっぱり松下さんは偉いねえ」と褒めるようになっている。

強烈な批判をしていたような人が、松下幸之助という人間に接することで感動し、その後は松下幸之助の味方に豹変してしまうのである。そういう光景を私はずいぶん見てきた。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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