ウクライナ軍がロシア領内反攻に成功した理由 現地キーウから見たウクライナ軍大反攻の真実

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一方で、最近のロシア軍には兵力・兵器の不足が深刻であることが露呈したことも、今回の越境攻撃の誘因となった。

軍事筋によると、最近ロシア軍はあちこちから部隊をかき集め、東部ドネツク州のポクロフスクに総攻撃をかけてきたが、ウクライナ軍に簡単に撃退された。ウクライナ軍はロシア軍の兵力プラス兵器の不足が本当に深刻であると確信をし、これを受けて、越境攻撃を始めたという。

こうした兵力・兵器不足をうけて、プーチン政権が今後、どう対応していくのか。まず注目されるのが、2022年9月に実施した部分動員に続いて、2回目の部分動員に踏み切るかどうかだ。

兵力不足のロシア軍とゼレンスキーの独自の道

最初の部分動員では30万人の兵力を確保したが、対象年齢層のうち若い男性70万人が軍務を嫌って出国した。仮に2回目の部分動員に踏み切れば、さらなる若者が国外に逃亡するだけでなく、プーチン政権に対して大きな反発が生じる可能性がある。だからこそクレムリンは、さらなる部分動員の実施を避けてきた。

しかし兵力不足がここまで深刻化してくれば、プーチン大統領にとって背に腹はかえられず、2回目の部分動員に踏み切る可能性がある。その意味で、今後の戦局やロシアの国内情勢への影響は大きいだろう。

今回の越境作戦にあたり、ゼレンスキー政権は対外的にも思い切った行動に出た。バイデン政権に対し計画について事前に知らせなかったのだ。

2024年6月4日付の「アメリカとウクライナの足並みがそろわない理由」の中で、2024年内の反攻開始の動きをみせるゼレンスキー氏に対しバイデン政権は2025年が望ましいと反対を伝達した。しかし、調整がつかないまま今回の行動に踏み切った。

最大の武器支援国家であるアメリカのバイデン政権に対し、感謝をしながらも最終的にはウクライナが望まない妥協案を迫られるのではないかとの疑念が晴れないゼレンスキー氏は、独自の道を歩むことを決めた。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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