企業のデータ活用「人材の社内育成と産学連携を」 国内初データサイエンス学部の滋賀大学長に聞く
――企業との共同研究も進んでいるようですが。
他の大学であれば企業との共同研究などの数は2桁だが、滋賀大は累計で約300件の実績がある。いま動いている共同研究でも約50ある。ここは最初に学部を設置して、地道に実績を積み上げてきたからこそと言える。
――欧米に比べて統計学やデータサイエンス学の人材が足りていないとの指摘があります。
全然足りていない。だからこそ学部卒でもすぐに活躍できるフィールドがある。元々国内では重視されてこなかった背景がある。私も統計学を専門としてきたが、ここまで需要が出るとは思っていなかった。おそらくコンピュータやAIといった先進技術が進化する中で、あらゆるデータが取れる環境になると想定できていなかったのではないか。
GoogleやAmazonは成功していまではデータで商売をしている。日本はものづくりの技術はあるが、データの領域では出遅れている。日本も情報領域について政府が声をかけてはいたが、状況としてはアメリカや中国に負けてしまっている。まだまだどうしていいかわからないという企業も多い。中小企業であれば人手不足で余裕がないということもあるのではないか。
――アメリカのIT企業とは待遇も違います。
優秀な人材でアメリカの統計学を専門とした大学院を卒業すると、Googleで初任給が2000万円というケースが実際に多い。アメリカ国内に限らず世界中から人材が集まってくる。日本企業だと東京大学の理系卒でも2000万円もらえるケースはほとんどないのではないか。
確かにデータサイエンスやAIの技術を持っていて優秀な人材なら生産性も高く、待遇がよくなるのも自然と言えるが、それだけアメリカはチャンスがあるとも言える。
5~10年で環境は変わっていく
――日本ではようやく受け皿が整ってきた段階と言えるのでしょうか。一方、データサイエンスに関連する学部が乱立しているとの声もあります。
人材不足は深刻だが、枠組みは改善しているという認識だ。国公立大学でも一橋大学や千葉大学、宇都宮大学など、プログラムをしっかりと組んでデータサイエンスに関連する学部を立ち上げている。私立大学でも同様の動きがある。
粗製濫造の面はあるかもしれないが、データサイエンスを専門とした学部を持つ大学が増えてきた。文部科学省の旗振りもあって一般教養としてのデータサイエンスも取り入れられている。ようやく日本もデータサイエンスを重視する方向に向かっており、今後5~10年で環境は変わっていくのではないか。
――リスキリングでもデータサイエンスは注目されています。大学はどのような役割を果たしていきますか。
大学院では企業から派遣された人材が学んでいるケースが多い。現在も修士課程(博士課程前期)の生徒のうち、4割は企業や官公庁から派遣されてくる人材だ。
同じ企業が毎年優秀な人材を送り続けているケースもあり、学んだ人材が集まってデータサイエンスの専門部署を立ち上げることもあるようだ。われわれとしても企業が抱える課題を解決するために学びに来てくださいと呼びかけている。
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