ウクライナ問題での日本の役割は小さくない ロシア安定化は北方領土問題解決にも繋がる

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2015年2月、再びミンスクで、ロシア、ウクライナ、ドイツおよびフランスの首脳が協議し、あらためて停戦が合意された。しかし、今回の停戦合意も実際には和平を実現することはできず、現在もなお戦闘が断続的に続いている。

停戦合意は「砂の家」であり、ボロボロと崩れていく。そうなるのは、ロシアが親ロシア派に対して武器を提供し続けているからである。それを示す証拠写真もあり、また、理屈からしても、ロシアからの武器提供なくして親ロシア派が戦闘を継続することは不可能なはずだ。

ロシアがそれでも武器の越境提供をやめないのは、東部のドネツクおよびルガンスク両州の親ロシア派が、西側パワーの東進に対してロシアを守る砦の役割を果たしているからである。彼らが消滅するとロシアは裸で西側パワーと接することになるため、それを恐れているのだ。

また、ロシアには、ウクライナが西側に傾斜するのは西側が裏で働きかけているからだという不信感もある。特に、ヤヌコーヴィチ元大統領が停止しようとしたEUへの傾斜停止が、前述の2013年政変により覆され、再度動き始めたことである。2014年2月9日のThe Voice of Russiaは、「ヌーランド米国務次官補は過去5週間に3回ウクライナを訪問した。彼女自身、ヤヌコーヴィチ元大統領にEUとの関係強化を継続するよう圧力をかけたことや、1991年以来米国はウクライナが民主化するプロセスを支持し、50億ドル以上の援助を与えたと語った」と報道した。西側の動きを苦々しく思っているロシアの姿勢が伝わってくる。

しかし、国際法を無視して一方的に現状を変更することも、ウクライナの主権を侵害して越境支援することも国際社会として認められない。ロシアとしては、合法的な方法で行動するほかないのは明らかだ。

親ロシア派に対する武器提供をやめられないロシア側の心情は分からないではないが、これをやめない限り西側との和解はありえない。武器提供の停止はロシアが西側との和解を実現するカギである。

去る6月、西側はドイツで開催される主要国首脳会議(G8)にロシアの出席を求めないこととした。これに対しロシアは、もはやG8に関心はない、求められても出席しないと強気の姿勢を見せている。それがロシアの真意かわからないが、西側とロシアとの関係が冷戦時に近い状態に戻ってしまったことは西側だけの問題にとどまらない。

日本が果たすべき役割は大きい

来年の伊勢志摩G7首脳会合においてウクライナ・ロシア問題は主要議題のひとつとなるだろう。現状ではロシアと西側の距離は大きく、また、ロシアは、そもそも西側に歩み寄るより、中国などとの連携を強化することにより西側と対抗しようとする傾向が強いので、西側諸国としてはきわめて困難な問題であるが、ウクライナ東部の紛争終結のため働きかけをさらに強めていかなければならない。

一方、日本とロシアは、プーチン大統領の訪日を実現し、北方領土問題を解決して平和条約を結ばなければならない。これは戦後長く残されている課題だ。G7議長国としての立場と、北方領土問題を解決しなければならない日本の立場は調和しないおそれもあるが、日本としてはこれまで以上に積極的にウクライナ問題に関わり、時にはロシアに対して強い態度で臨みながら、ロシアと西側およびロシアと日本の関係改善に努めなければならない。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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