無事故続く台湾新幹線--安全第一こそ日本流、大惨事招いた中国新幹線との違い
山間部を走ることが多い日本の新幹線は、トンネル断面積を小さくして建設費用を節約している。一方、小さいトンネルに列車が高速で進入すると“ドン”という微気圧波が発生する。研究の結果、トンネル微気圧波の影響を最小限に抑えるためにカモノハシ型の先頭形状が採用されたが、欧州仕様である台湾のトンネルの断面積は日本よりも大きい。つまり台湾ではカモノハシ型は不要なのだ。
日欧技術の混在は、運転士にも負担となる。台湾新幹線の信号方式は、日本の新幹線と同じデジタルATCが採用されているが、同時にTGV型の緊急停止装置も装備されているため、運転士は両方のシステムに習熟する必要がある。また、異常時は運転士が自分の判断で停止位置を選び手動でブレーキをかけ停止するという方式が取られている。これも近隣の列車も含めて自動的に停止する日本の新幹線のシステムとは異なる。そのため、「1年以上も試運転を重ね、システムや軌道を何度もチェックした」と、当時このプロジェクトに携わった海外鉄道技術協力協会の佐藤久史・技術顧問は語る。
日本企業連合による運転士などスタッフへの教育訓練は、「欧州式のシステムには関与せず新幹線の運営経験に基づく範囲に限定して」(JR東海)実施された。つまり、欧州仕様についてはカバーしていないのだ。フランスからTGVの運転士を採用したものの、それでも技術に習熟した運転士が足りない。結局、開業までに充足数がそろわないこともあり、当初は間引き運転を余儀なくされた。その結果、計画を下回る出足となった。
だが、今では経験豊富な運転士も増え、今年上半期にようやく黒字に転じた。無理して運転士を早期育成せず、安全を優先した台湾新幹線。「安全第一こそ日本流」(佐藤氏)なのだ。
(週刊東洋経済2011年10月1日号より)
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