日銀は為替を金融政策の対象に入れるべきだ このままでは金融政策への信頼が失われる懸念

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しかし、これは、日銀の人々には響かない。「われわれの目的は物価だ。そして、物価は悲願のインフレ率2%定着の最後のチャンスだ。ここで逃しては、この20年の戦いが無駄になる」ということで、人々と日銀の分断は、日本でも永久に残り、将来の金融政策への人々の信頼は永久に失われてしまうだろう。

「『物価が上がらなければいいのに』」と嘆く人たちへ」「日銀は『円安』『国債の山』『次の緩和』をどうするか」(7月8~9日配信)での、渡辺努教授との対談記事でも明らかだが、日銀および金融政策の学問的な専門家は、物価というものを最優先に考えていることがわかる。

この数年の日銀の動き、植田総裁の金融政策のスタンスを、われわれ一般人の生活感や常識にとらわれずに観察してみると、物価最優先というのが建前ではなく、本音であることがわかるはずだ。これは、30~31日の日銀政策決定会合においても、アメリカの中央銀行の決定会合(FOMC=公開市場委員会)後の声明文を読んでも、再確認されるだろう。

「実体経済にひずみをもたらさない為替」を目標にすべき

そして、実は、こうした物価最優先の考え方は理論的にも間違っている。とりわけ日銀においてそうだ。

なぜなら、21世紀の成熟国の経済においては、金融政策は金融市場、つまり、株式や債券などのリスク資産市場と為替市場に直接大きな影響を与え、実体経済には間接的にしか影響しない。それが、日銀の異次元緩和で得た教訓だ。

期待では物価は動かない。そうであれば、直接影響を与える市場にターゲットを絞って、それを安定化させる、コントロールすることで、間接的に実体経済を安定化させ、健全な経済発展を導く。それが、合理的なはずだ。

物価安定を通じて経済を発展させることが、実体経済の変動が経済変動の中心で、需要増加がインフレに直結する20世紀後半にはそうだったのだから、21世紀には、金融市場の動向が主導して実体経済に影響を与えるのだから、金融市場を直接の目標とすべきだ。

つまり、為替をターゲットとし、実体経済にひずみをもたらさない為替を目標とする。「2%のインフレ率を目標とする」のように、経済主体の行動が、ファンダメンタルズではなく為替水準およびその変動から影響を受けないような為替水準にとどまるように、という目標を設定する。インフレ率の変動が実体経済に影響を与えないようにする、のとまったく同じ精神だ。

そして、「景気安定」という目標を「株式市場や債券市場の安定」(つまりファンダメンタルズから大きく乖離しない、過度に変動しない)という目標に置き換え、これが実体経済に連動した形になるように安定化を図るべきなのだ。

なぜ、そのような自然なことができないのか。それは、「金融政策に為替や株価は関係ない、物価に集中」という過去の原理原則を忠実に心の底から正しいといまだに信じているからなのだ。そして、それは、日銀を日本社会から孤立させ、今後の通貨波乱のときに、日銀が力が発揮できない大きな要因となるであろう。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

小幡 績 慶応義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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