「FT買収競争」に敗れた会社の次の一手とは? 独アクセル・シュプリンガーの戦略を読む

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現在のアクセル・シュプリンガー社の従業員は約1万3000人(2013年。前年より約8%増)。世界40カ国でビジネスを展開する。収入の43%がドイツ国外で生じたものだ。

年次報告書によると、同社の「魂と精神はジャーナリズム」であるという。ミッションは「デジタル世界における、独立したジャーナリズムを成功裏に打ち立てる」こと。ゴールは「指導的な、デジタル出版社になること」。

デジタル収入の割合を増やし、完全なデジタル企業になるために、欧州のいくつものデジタル企業(求人サイト、物々交換のサイト、デジタル広告企業など)を買収してきた。2014年第1四半期にデジタル収入の割合が初めて50%を超えた。年間収入は約30億ユーロだ。

会社全体をデジタル企業化させることを目標にし、その中に新聞業を位置付ける。未来の新聞業がほぼデジタル一辺倒になることを見越し、経営陣トップがこの目標を公言しながら、着々と準備を進めてきた。

そのトップに立つのがデップナーCEOだ。もともと、アクセル・シュプリンガー氏が創業した新聞社であり、カリスマトップの下にまとまる気風がある。

新聞製作の現場はデジタル版が「主」、印刷版が「従」の位置付けだ。筆者は2014年、同社が発行する高級紙「ヴェルト」の編集室を訪れる機会があったが、24時間の報道体制を真に実現するために、デスククラスの人材を地球の反対側になるオーストラリアに3カ月ほど赴任する制度を取り入れているという話を聞いた。通常の支局とは別物で、現場で高度な編集判断ができるデスククラスを送ることがポイントだ。スタッフは、南半球への赴任を楽しみにしているという。

敵は米国企業のグーグル

デップナーCEOは、ちょくちょく自分自身がニュースになってしまうような発言をする。アクセル・シュプリンガー社のドイツ新聞市場での大きさ(同社が発行する数々の新聞の総部数は市場全体の約23%を占める)のため、新聞界を代弁する声になってしまうのだ。

ドイツ新聞界やデップナー氏にとって、「敵」の1つは、新聞社が経費をかけて作り上げた記事を取りまとめ、無料のグーグルニュースとして配信してしまうグーグルだ。米国企業であること自体も気に入らないようだ。

新聞社側にお金を払わなければ、グーグルにニュース記事を使わせないという運動を率先したこともあった。2013年3月、ドイツでは新聞社などがネット上で出したニュースを検索サイトに掲載する場合、使用許諾や使用料の支払いを義務付ける改正著作法が成立。報道機関は1年間、営利目的でニュース記事を公開する独占的権利を持った。

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