衝突事故で「1両だけ大破」、欧州鉄道の隠れた課題 各国で成長、新興鉄道の車両調達に落とし穴?

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前述の通り、この夜行列車の運転士は信号冒進に気付いて非常ブレーキを作動させ、列車は衝突直前に停車している。そこに停止できなかった貨物列車が衝突し、夜行列車を押し出す形となった。正面衝突には違いないが、実質的には停車していた列車に別の列車が衝突したのと同じ状況ということだ。

その際、機関車の直後に連結されていた客車が、衝突によって機関車と3両目以降の車両に押しつぶされる様子が監視カメラの映像から確認できる。車体に十分な強度があれば、ここまで破壊されることもなく、死傷者の数も変わっていたかもしれない、というのがレギオジェット側の考えだ。

レギオジェット ヴェクトロン 事故車
衝突した列車を牽引していた機関車(撮影:橋爪智之)
レギオジェット衝突事故 客車
くの字形に折れて大破した、機関車の直後に連結されていた客車(撮影:橋爪智之)
レギオジェット 事故車
衝突事故を起こした列車。乱雑な車内が衝突時の混乱を物語る(撮影:橋爪智之)

これは事故そのものに対する言い逃れではない。同社は、運転士のミスという可能性については否定しておらず、過去に同型の客車で、今回と同様に車体が変形する事故が起きていたことに注目したのだ。

以前もあった「車体の異常変形」

2018年4月、早朝のザルツブルク中央駅構内で連結作業中、通常より速い速度で車両同士がぶつかり、今回の事故で破損したのと同型の客車だけが大きく変形する事故が発生した。

日本の車両と異なり、ヨーロッパの連結器はバッファーと呼ばれる緩衝器が取り付けられおり、このバッファーに押し付けるようにして連結するため、ある程度の衝撃には耐えられる。この際は、時速25kmという通常の連結作業ではありえない速度で衝突したため車体の損傷は避けられなかったが、その中でこの1両だけが異常な変形を示したのだ。

レギオジェット クシェット
今回の衝突事故で大破したのと同型のクシェット客車。同型車は2018年にも連結作業中の事故で車体が大きく変形している(撮影:橋爪智之)

レギオジェットは2011年に鉄道事業へ参入して以降、主に他国で使用済みとなった中古客車を使用してきた。これらの客車は1960~80年代に製造されたものが中心で、老朽化の色を隠せない部分も見られるが、しっかりと整備されており、これまで車両の不具合による大きな事故は発生していない。

当該客車は、1981~82年にかけてオーストリアのイェンバッハー・ヴェルケで60両が製造された簡易寝台車(クシェット)で、導入以来オーストリア鉄道(ÖBB)の夜行列車で活躍した。2004~10年にかけて車体更新工事を行い、2015年にレギオジェットが14両を購入した。主にチェコ―スロヴァキア間の夜行に使用され、夏季にはクロアチアへの臨時列車にも使用された。今年3月からは、ウクライナのチョップまで運行を開始した。

レギオジェットは、事故発生後に当該客車の使用を即時中止、現在は営業に使用されていない。また、現在も他社で使用されている同型客車についても、その危険性について警鐘を鳴らし、使用中止を呼びかけた。

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