日本流マネジメントは途上国医療を変えるか ケニア現地取材で考える

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

大統領が提唱する医療保険制度は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)と呼ばれています。体調が悪い時やケガをした時、病院で医師の診察を受けたり、薬をもらったりしても、それが原因で家計が破綻しない仕組み。国民の健康だけでなく、貧困層や庶民の経済的基盤を守るセーフティネットです。

ケニア保健省で活躍する日本人職員

改革真っただ中のケニア保健省で活躍する日本人がいます。渡邉学さん。同省の上級政策技術顧問(アドバイザー)として、常勤で働いています。

「ケニアが経済成長して中進国(注:世界銀行の定義では、1人当たりGNI〈国民総所得〉が1000~1万3000米ドル弱の国)になりつつある今、UHCを導入し、弱者救済の仕組みを国が担えるようにする必要がある。所得が増える中、人々が保険料を払うのを当たり前と考えるようになれば制度が根付き、国内で支え合いの仕組みを作れます」(渡邉さん)。

ちなみにケニアの1人当たりGDPは、1337USドル(2014年、世界銀行)で、日本は3万6194.4USドル。

もともとJICA職員として主に保健分野協力を中心に活躍していた渡邉さんは、日本政府が保健分野で40億円の円借款をケニアに供与すると決定した際は、関係者の調整役を務めています。

ケニアの地方診療所の前に集まる子どもたち

日本では、1955年に国民健康保険法が制定されました。農業従事者や零細企業勤務者など、人口の約3割、3000万人の無保険者が社会問題になっていたためです。

同法を受け、1961年には国民健康保険事業が始まり、全国どこでも誰でも保険医療を受けられるようになりました。この、日本が途上国から中進国へと経済発展する過程で導入した、医療保険制度のマネジメント経験が、ケニアで今、生かされているのです。

日本は、近年、高齢化が進み、年金・医療制度が財政を圧迫しています。「世代間の支え合い」の色合いが濃い制度は、現役世代の負担感が低い時期に導入する必要があります。ケニアの場合、3.9に達する高い合計特殊出生率と若年層の多い人口構造からは「人口ボーナス期にある今が、支え合いの仕組みを構築する好機」(渡邉さん)と言えるのです。

ジェームズ・ワイナイナ・マチャリア保健長官(提供:日本国際交流センター)

ケニアで、すでに医療制度改革の成果が表れている分野もあります。たとえば、出産費用無料化による病院出産の奨励。ケニア保健省の調べによれば、無料化以降、病院での出産率は44%から66%に上がったそうです。

「健康は経済成長に直結する。現役世代の人口を健康に保つことは国の発展にとって大切であり、その意味で、保健政策は福祉ではなく投資です」とジェームズ・ワイナイナ・マチャリア保健長官(日本の厚生労働大臣に相当)は言います。

次ページ蔓延する感染症の問題
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事