沖縄で米兵の犯罪が続く根本的理由と深刻な実態 沖縄県に連絡しなかった以外の深い問題(後編)

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米軍は結婚前後の若いカップルを対象に、定期的なカウンセリングサービスを行っている。国籍も言葉も文化も違う男女の間に発生するトラブルを解決するため、基本的な情報や知識を提供し、どこに行けばどのようなサービスが受けられるのか教える。だが、根本的な問題は、若い米兵が精神的に未熟で、カップルの間に起こる問題に立ち向かう意志が薄弱なことだという。

昨年12月に起きた事件の加害者がもつ事情は不明だが、一般的傾向として、20代前半の米兵と沖縄の女性の夫婦は、女性が妊娠したときに急速に関係が悪化することが多い。配偶者が性交に応じなくなると、米兵は性的欲求を満たすために他の女性を求める。配偶者や子供に関心を失い、扶養を嫌がるようになる場合もある。

米兵と地元住民が雑居する沖縄

2023年12月の事件で、加害者の米兵は公園で16歳未満の地元の少女に接触した。沖縄に住んでいれば、これはとりたてて特別な状況ではない。筆者の勤務先の琉球大学から徒歩5分の閑静な住宅街の中に幼稚園・小学校に隣接した南上原糸蒲公園(中城村)がある。ここは米海兵隊普天間飛行場(宜野湾市)から約4km離れているが、米軍関係者の家族もよく遊んでいる。バスケットコートがあるので、若い男性の米兵が数人連れだって来るときもある。

トロピカルビーチ(宜野湾市)、アラハビーチ(北谷町)、渡具知ビーチ(読谷村)など、子供からお年寄りまでの地元住民に加え、観光客が散歩や遊びに来る場所でも、米軍関係者が集まってバーベキューやスポーツを楽しんでいる。

日本人よりも米軍関係者の方が圧倒的に多い公園もある。嘉手納基地と隣接する北谷(ちゃたん)町にある砂辺馬場公園。明るい時間帯には、大きなジャングルジムやターザンロープ、バスケットコート、スケートボードの練習場でアメリカ人の子供たちが遊び、その親たちが周辺のベンチを占拠する。薄暗くなると、ランニングをする上半身裸のアメリカ人の成人男性や、大きな血統犬を散歩させるアメリカ人がひっきりなしに公園を訪れる。

公園を取り囲むように建てられた米軍関係者専用のアパートや一戸建ては、シャッター付きのガレージにテーブルがおかれたバルコニー、何匹もの犬、イルミネーションなどが目を引く、アメリカのホームドラマに出てきそうな光景を演出している。2000年代から建設が進み、老朽化した米軍住宅は放置されて、その周囲にどんどん新しい住宅が増えていく。貸し出し中の米軍住宅の稼働率は9割を超えるという。

トラブルも増えた。パーティー好きのアメリカ人の自宅パーティーで深夜まで続く騒音。酔った米兵による地元住民の住宅への侵入。犬のふん害や地元住民が犬にかまれる事故。嘉手納基地に出勤する米軍関係者による朝夕の渋滞。

米軍関係者と地元住民が同じ居住空間で暮らす以上、既婚を理由に米軍による行動制限から外れている性犯罪者が、地元の子供に容易に接触できてしまう。日本政府は2016年の事件後から「沖縄・地域安全パトロール隊」事業を始めたが、16年6月の開始時から6年間で、米軍関係者に関する通報につながったのはわずか10件。昨年から現在までに起きた、米兵による性的暴行5件はいずれも防げていない。

対症療法でしかないが、米軍基地内居住者の夜間外出を禁止し、米軍関係者の基地外居住を制限して、米軍関係者と地元住民の接触を減らすしか、いまのところ再発防止策はない。

山本 章子 琉球大学准教授

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やまもと あきこ / Akiko Yamamoto

琉球大学人文社会学部国際法政学科准教授。1979年北海道生まれ。一橋大学法学部卒。編集者を経て、2015年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。沖縄国際大学講師、琉球大学専任講師などを経て2020年4月から現職。専攻・国際政治史。著書に『日米地位協定 在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書)、『米国と日米安保条約改定――沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年、日本防衛学会猪木正道賞奨励賞受賞)など。

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