録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか

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山崎弁護士は「三菱UFJモルガン側が商品性を正しく認識できていなかったことは明らか。商品の複雑性やリスクの高さを誤って認識していたのだから、説明義務違反などに加えて適合性の判断も正しく行われていなかった」と主張する。

一方、三菱UFJモルガンの広報担当者は「第3次提訴の訴状を確認していないのでコメントは差し控える」とし、「当社の主張については裁判の中で明らかにしていく」と話す。

最終的に和解に至る可能性もあるが、早期に和解すると提訴する人が次々に出てきてしまう。元本削減を知った時点から3年で時効となるため、和解の場合であっても時効ギリギリまで裁判が長引くとみられる。

日本で蔓延するモラルハザード

クレディ・スイスのようにリスクが極めて高いAT1債がある一方で、日本の金融機関が発行するAT1債はトリガーが引かれるリスクは小さいと考えられている。クレディ・スイスの問題以降も日本のメガバンクが立て続けにAT1債を発行し、投資家から絶大な支持を集めているのは、このリスクの小ささ故だ。地銀の群馬銀行までもが今年1月に2.244%の低コストでAT1債を発行している。

そして最も懸念されるのは、日本のこうした実態が、投資家と金融機関の双方に「モラルハザード」をもたらすことだ。

日本のAT1債にも2つのトリガーがある。1つは、CET1比率が5.125%を下回ったら、その資本度合いに応じて元本が削減される「損失吸収事由」。もう1つは、預金保険法に基づき「預金等の全額保護」や「一時国有化」などが行われる第2号措置、第3号措置、特定第2号措置が発動された場合の「実質破綻事由」だ。

クレディ・スイスのAT1債を全額毀損させた企業存続事由のトリガーを日本の破綻処理枠組みに当てはめると、かつてりそな銀行を救済した際に使われた第1号措置または特定第1号措置が該当すると考えられる。だが、これらが発動されても日本のAT1債はトリガー事由にならない。つまり、事実上破綻を回避する目的で公的資金による資本増強や流動性の供給といった公的支援を受けても、日本ではAT1債の元本が毀損しない商品性になっている。

さらに、日本には預保法の救済スキーム以外にも、金融機能強化法による公的資金注入の枠組みがあり、AT1債のトリガーを回避できる万全な公的支援が整備されている。

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