録音データが示す「AT1債」裁判の新たな展開 三菱UFJモルガンは商品性を理解していたのか

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会話の中で顧客が言う「CET1」とは、「普通株式等Tier1」と呼ばれる銀行の中核的な自己資本のことだ。AT1債は、銀行が破綻する前の段階で投資家が損失を負う仕組みで、少なくともCET1比率が5.125%を下回ったら、元本の毀損か、株式に転換される商品性であることが求められる。クレディ・スイスのAT1債は「CET1比率が7%を下回った場合」に元本が全額毀損する仕組みになっていた。

ただし、クレディ・スイスのAT1債は、破綻前に元本が毀損するトリガーはこれだけではなく、「企業存続事由」も定められていた。具体的には、規制当局が発行者の破綻を防ぐために公的部門の特別支援が不可欠だと判断し、その支援を発行者が受け入れた際も元本が全額毀損する。

クレディ・スイスのAT1債は、この企業存続事由のトリガーがヒットして元本が全額毀損した訳だが、会話のやり取りからは、営業担当者がCET1比率のことしか認識していなかったことが読み取れる。

代理人の山崎弁護士によれば「企業存続事由について三菱UFJモルガンの営業から説明を受けたと話す原告は1人もいない」と言う。

公的支援アナウンス後も販売を継続

それどころか、必要があればクレディ・スイスに「流動性を供給する」という、スイス当局からトリガー事由となるアナウンスがあった2023年3月15日以降も、三菱UFJモルガンはクレディ・スイスのAT1債を販売し続けた。AT1債が全額毀損したのは、そのわずか4日後。この間にAT1債を購入した顧客も原告に含まれている。三菱UFJモルガンが組織として企業存続事由を把握できていたのかさえも問われそうだ。

ほかにも、この期間にアドバイスを求めた顧客に対して、「今回は資本注入ではなく、流動性供給ですので今のところ問題ございません」とメールで回答している。また、録音データには、トリガー事由となる公的支援のアナウンスを、営業担当者がポジティブ材料として受け取っていた会話のやり取りもある。

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