「Vision Pro」世界展開で改めて俯瞰するXR業界 生成AIとセットで進化する空間コンピューター
VRシステムの歴史は実は古い。
1989年に伝説的なエンジニアのジャロン・ラニアーが率いるVPL ReserchがVRヘッドセットの基本形を開発したのが最初だ。偶然の一致ではあるが、このヘッドセットは“Eyephone(アイフォン)”という名前だった。
手の形状を計測するData Gloveと呼ばれる装置と組み合わせ、“R2D”という通信システムとしてパシフィックベル(かつてあった米通信会社)の展示ブースで発表し、のちに各国の大手メーカーにその基本システムが販売された。日本でも松下電器が調達してアプリケーションを開発し、システムキッチンの販売シミュレーション向けに1980年に運用を始めたとの記録がある。
このシステムと現代のMR HMDの違いは、実は驚くほど似ている。下記は筆者が模式図にしたものだが、表示品質やコンピューターのサイズ、性能などは異なるが、基本的な構成は同じ。
MRシステムでは外部の映像や空間把握能力を得るためのセンサーが配置されるが、視覚を奪った上でコンピューター映像を眼球に投影し、手などのジェスチャーを通じてコンピューターとインタラクションするという点は共通している。
MRシステムはコストが大きすぎて実装できなかったカメラを用いた現実空間を模写する技術を、Vision ProやQuest 3といった単独デバイスでも実現したことで、ひとつのハードルは越えた。前者は映像品位の面で大きな驚きを与え、後者は前者の1/7の価格でMRを実現している点で注目に値する。
体験の質で圧倒するVision Proに注目が集まりがちだが、実現している技術と価格のバランスという面に優れたQuest 3は、その陰に隠れて過小評価されているように思う。
存在感が大きいARグラス
今年の製品化動向を見ると積極的に新製品を展開するXREALをはじめとするARグラスの存在感も大きいように思える。
ARグラスはコンピューターグラフィクスの映像とともに、光学的に周囲が見えるよう透過的に設計された製品だ。必要な半導体や表示用OLED、グラスの光学設計技術などが確立され、比較的容易に開発できるようになっているため、多くの製品が生まれている。
メガネのように軽快に利用でき、透過する実像を遮蔽するシールドをつけると映像を純粋に試すこともできるが、多くはスマートフォン用ディスプレーとして設計されており、新しいコンピューターデバイスというよりもスマホ向けモバイルディスプレーという位置付けだ。
もちろん、そうしたニーズもあるが、DSCC(ディスプレーデバイス専門の調査会社)が発表しているVR(MR含む)向け、AR向けディスプレーデバイスの出荷動向・予測を見る限り、ARグラス市場は全体の2割以下でしかない。
なお、VR/MR向けディスプレーの出荷は2025年以降にペースが急増する予測(2023年末)で、この予測そのものに大きな違いはないが、DSCCは最近、増加ペースに関して予測値を少し下方修正している点に留意したい。
“XRデバイス”といった場合、VR/MR用HMDもあればARグラスもある。また幅広く捉えれば、2面あるいは3面に立体配置したLEDサイネージに擬似的な3D映像を流す広告表示などもXRデバイスと言えるが、現時点でのARデバイスは用途がやや限定的だ。
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