アメリカのインフレは、そう簡単には収束しない 下がりにくい「粘着性のある物価項目」に注意
冒頭で「5月のCPI総合指数は前年比で3.27%上昇した」と記したが、実は昨年6月には前年比2.97%という、これを下回る伸びを記録している。つまり、CPIはこの1年間、それほど大きな進展は見られていないということになるわけだ。
一方、コア指数は昨年3月以降、つねに前年比の伸びは前月を下回る状態が続いている。だが、それでも5月時点で前年比3.42%と、依然として総合指数を上回る高い伸びになっている。昨年6月に総合指数が小幅ながらも3%を下回って以降、進展が見られていないことを考えれば、コア指数だけがこのまま3%を割り込んで下がり続けるのかは微妙なところではないか。
ではなぜ、ここ1年ほど、総合指数において物価の上昇率がなお高止まりしており、期待するほどにはディスインフレが進んでいないのだろうか。
その答えは比較的簡単だ。商品価格の下落が止まってしまったからだ。新型コロナウイルスの感染爆発後、サプライチェーンの混乱や、ロシアによるウクライナ侵攻による供給不安の高まりで、商品市場は原油を中心に急騰した。
その後、確かにこうした問題が解消される、あるいは懸念が後退する中で値下がりは続いてきた。そうした商品相場の下落やそれに伴うモノの下落が、昨年夏までの総合指数の伸びの低下につながっていたのは間違いないところだ。だが、原油やその他の商品の下落が止まり、逆に場合によっては再び上昇するような状況下では、総合指数のディスインフレが進まなくなるのは当然の流れだ。
コア指数のディスインフレを妨げる要因に注意が必要
一方エネルギーと食品を除いたコア指数は、こうした商品相場の値動きに影響されることなく、ここまで順調にディスインフレが進んできたが、今後もこの傾向が続くとは限らない。
この先ディスインフレを阻害する要因として注意しなければならないのが、一度上昇してしまったらなかなか下がらない、価格粘着性のあるとされる項目の存在だ。
こうした粘着性のある物価項目として、現時点で一番警戒されているのが住居費だろう。特に家賃は前年比で5.30%、住宅を所有している家庭が毎月支払わなければならない、家賃と同様の支出とされる帰属家賃は5.64%と、どちらも極めて高い伸びを維持している。
このほか、賃金の高止まりにも注意が必要だ。労働省が発表する雇用統計における時間当たり賃金の伸びは、5月時点で4.08%と、依然として4%を超える水準にとどまっている。
ジェローム・パウエルFRB議長は、労働市場の逼迫や賃金の上昇が物価に与える影響はそれほど大きくないとの見解を維持している。だが、コストにおける人件費の割合が高く、賃金の上昇が販売価格に比較的転嫁されやすいサービスの価格が前年比で5.22%という高い伸びを維持していることを考えれば、賃金の上昇圧力はやはり無視することはできないだろう。
こうした項目の物価の伸びも、徐々に後退しているのも確かなのだが、文字通り粘着性があるだけに、ここから一段のディスインフレを妨げる可能性は高いと考えておいたほうがよいのではないか。
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