鉄道旅の愉しみ「駅そば」名店に聞く味のこだわり 三島駅の「桃中軒」と我孫子駅の「弥生軒」

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――なぜこれだけ満たされるボリュームの商品を490円で提供できるのか?

「当社の心意気です。自家製だからできることと思います。仕入れはブラジル産のブロイラーという鶏肉のモモ肉です。この仕入れ以外はすべて自家製で、カットから下味、揚げるまで、全部当社でやっています。だしは産地直送、自家製の麺で、コスト的には抑えられる。仕入れだったら、やっぱりこの値段じゃ出せない」

――利用者の反応や感想は?

「遠方から来られるお客さんも満足してお帰りになる。というお話を従業員から聞いています。従業員は、基本的に1人。回転がとても早い弥生軒において、1人で用意し提供する。非常に多忙な仕事です。通常はワンオペだが、ベッドタウンのためサラリーマンが多く、夜に関しては2人体制にしている店舗もあります。弥生軒は我孫子に3店舗、天王台に1店舗。1・2番線の上野寄りにある6号店は、店舗自体も大きく、弥生軒の中で1番売れている店舗です。この6号店に関しては、夜の17時や18時ぐらいは2人体制です」。

――1日どれぐらいの数の唐揚げが販売されているのか?

「多い時で平均1300個ぐらい。朝の4時とか5時ぐらいから従業員が来て、揚げています」。

山下清のエピソード

自家製でのど越しの良いつるつる麵に関しては、植崎社長の父が作ったそばの製法を、ずっと変えずに続けている。先代の伝統を一切変えずに、その手法を守っている。ただし、そばを打つ機械だけは、1回変えたことがあるそうだ。「去年くらいかな、30年ぶりに違う機械に変えたのですが、その時に食感がちょっと違うなと。機械が変わると、もちもち感が変わる、なんとか元に戻そうと。機械を変えたばっかりは、なぜ食感が変わるのかわからず、みんなでずっと悩んで、機械屋さんにも連絡して、いろいろ相談に乗ってもらった。みんなで試行錯誤して、『やっと元の食感に戻ってきたかな』と喜んでいます」。

最後に、かつてこの店で働いていた山下清画伯についてのエピソードを聞いた。

「私は2回しか会ったことがないです。祖母に画伯が挨拶に来たときと、近所でサイン会があるからと、父親に連れていかれたときです。直接話したことはないですが、父は同世代で一緒に仕事をしていました。父の話によると、とにかく几帳面だと何度も言っていました。例えば、大根の青首を切る際。白い部分、青首のギリギリまで切るそうで、さらに青首の下が少し残るのを、包丁を立てて、またそこを丁寧にかつらむきのように、細く切っていくそうです」

ほかにも、会社にころがっている用紙などに、いつもスケッチしていたそうだ。段ボールなどさまざまな廃材が出ると、そこにいつもいろいろ描いていたと話す。弥生軒では、大きな唐揚げそばといっしょに、店舗に飾られている山下清画伯の絵画なども味わえる。

おすすめの駅そばはほかにも、東海道線の静岡駅「富士見そば」や、山陽本線の姫路駅「まねきのえきそば」などがある。今後も旅する駅そばの情報もお伝えしていきたい。

渡部 史絵 鉄道ジャーナリスト

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わたなべ・しえ / Shie Watanabe

2006年から活動。月刊誌「鉄道ファン」や「東洋経済オンライン」の連載をはじめ、書籍や新聞・テレビやラジオ等で鉄道の有用性や魅力を発信中。著書は多数あり『鉄道写真 ここで撮ってもいいですか』(オーム社)『鉄道なんでも日本初!』(天夢人)『超! 探求読本 誰も書かなかった東武鉄道』(河出書房新社)『地下鉄の駅はものすごい』(平凡社)『電車の進歩細見』(交通新聞社)『譲渡された鉄道車両』(東京堂出版)ほか。国土交通省・行政や大学、鉄道事業者にて講演活動等も多く行う。

 

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