いつ退院できるかもわからない中、家賃だけを払い続ける日々が続いていた。たとえ退院したとしても両親としてはもう娘を一人にはしておけない。そのため、退院を待たずしてこの部屋を引き払うことにしたのだ。
両親は娘の状況を把握できていなかった
ふすまに書かれた文字のことは、依頼主の両親にはあえて伝えなかった。その代わり、片付け後に両親が部屋に入ったときに、すぐにふすまに目が向くようにしておいた。
「この文字を見たら大きなショックを受けるだろうなと思って、ご両親にはふすまのことは伝えられなかったんです。ショックを受けるにしても僕らの前だとしんどいだろうなと。見るんだったらご両親2人だけで見たほうがいいと思ったんです」
かといってふすまを処分して、なかったことにするのも違う。多くのケースを見てきたイーブイなりの気遣いだった。また、依頼主である両親に対して気を遣ったのにはこんな理由もあった。
「依頼時のお話と部屋の状況を比べると、その温度感がだいぶ違ったんです。お母さんは『娘がちょっと精神的にしんどかったみたいで』とお話されていました。でも、部屋を見るとちょっとどころではなかったわけです。娘さんのつらさが仮に“10”だとしたら、ご両親はその3割も気づけていなかったはずです」
親としては娘のつらい状況を何も把握できていなかったことになる。第三者にふすまの文字を見せられてしまったら、親としての立場がなくなってしまう。
きっとこの部屋に住んでいた娘の女性は、几帳面で責任感の強い人だったのだと思う。それゆえに職場で起きたいじめのことも周りに相談できず、心が壊れるまで我慢してしまい、親には心配をかけてはいけないと一人で悩みを抱えてしまったのだろう。
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