日本が今の円安を懸念する必要はまったくない 日銀の植田総裁が利上げを急ぐ可能性は低い

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仮に、日銀が政治への忖度などから利上げを急ぐことになれば、長期金利は一段と上昇することになり、政策ミスの可能性が高まる。

というのも、エネルギーと食料品を除いたコアCPI(消費者物価指数)などは2024年に入ってから年率2%以下のペースで推移しており、落ち着きつつあるからである。なおも総需要不足が完全には解消されていない中では、今の円安を許容して、企業・家計のインフレ期待を高める余地がまだ大きいとみる。

現在の円安にもっと冷静になるべき

以上を踏まえると、日銀は、家計の実質所得が持続的に高まることを可能にする「持続的な賃上げ」が起きるまで金融緩和を続けるのではないか。夏場に利上げを急ぐ可能性は低く、「引き続きインフレ期待の定着と名目経済の拡大を促す」と日銀執行部は判断するのではないか。なお筆者は、10月会合(30~31日)での利上げを予想しているが、引き続き緩和的な姿勢をとることに変化はないとみている。

一方、こうした筆者の考えとは異なって、国内の経済メディアなどでは「今は円安が行きすぎている」という論調が目立つ。ただ、アメリカやヨーロッパのように2%を明らかに超える高インフレではない日本において、たとえ1ドル=160円に近づき円安が進んでも、経済へのネガティブな影響は限定的だろう。

ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏(現ニューヨーク市立大学教授)も6月2日のブルームバーグテレビジョンとのインタビューで「円安は日本にプラス、パニックの理由でない」と述べているように、現在の円安を懸念する必要はないのだから、われわれはもっと冷静になったほうがよい。

こうした最近の円安進行に対する行きすぎた懸念について、筆者は1990年代後半から2000年代まで金融緩和強化に強硬に反対していた論者の声と似ていると感じている。1990年代半ばから、マクロ安定化政策の失政が続き脱デフレとインフレ安定に失敗した歴史を、われわれ日本人は真摯に振り返るべきだろう。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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