のと鉄道「全線運行再開」では喜べない現地の実態 鉄道を取り巻く地域の復興はまだ見えない

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地方鉄道にとって、高校生の通学定期利用は重要な収入源。始業式・入学式を前にした4月6日に運転再開できたことは大きな意味をもつ。その日を迎えられたのは、鉄道の工事部隊を投入して一気に進められたからだという。

「それでなければ、この圧倒的に人手が足りない中では復旧の見通しは立ちませんでした。しかしそれも、運行できる最低限の工事と乗降に危険のない範囲までの復旧です」

穴水駅構内を指さされるままに見ると、そこここに段差や傾きなど地震の爪痕が残っていた。駅に隣接した木造2階建てののと鉄道本社屋は半壊で、使用不能だ。のと鉄道再開の報道を見て元に戻ったようなイメージでいたが、それが幻想だった事実を突きつけられた。

のと鉄道旅行センターの山崎研一さん(筆者撮影)

鉄道を取り巻く地域の再開はまだ見えない

しかし、山崎さんが喜べないと言うのは、のと鉄道内部のことではない。鉄道沿線、さらに能登全体が復興にはほど遠いのだ。

「私は、のと鉄道でも直接鉄道の運行や保守にかかわっているのではなく、団体客の誘致やイベントの企画・実施、そのためのマーケティングやブランディングが仕事です。2008年にはのと鉄道の団体利用は約4800人だけでしたが、私が入社した翌年には1万500人。貸切列車の運行や車内でのガイド、観光列車『のと里山里海号』の運行など次々進め、2015年には6万7800人まで伸びました。のと鉄道に乗車してもらうだけでは七尾―穴水間片道850円ですが、食事をすれば千円単位、宿泊すれば万円単位の消費が発生します。鉄道会社は単体ではなく、地域に経済波及効果をもたらしてこそ価値があるのです。でも今まだその地域のほうが、再開の見通しが立たないのです」

「私も確認したいのでいっしょに行きましょう」と連れて行ってもらったのは、能登半島西岸の輪島市だった。走るにつれ、ブルーシートを掛けた屋根、崩れた塀、1階部分が潰れた家屋、波打つように歪んだ瓦屋根などが目に飛び込んでくる。山はあちこちで、片側斜面がそっくり落ちて赤い山肌を見せている。道路はほとんど走行できる程度に補修してあるが、橋と道路の継ぎ目はズレてできた段差を埋めて傾斜にしていたり、崩れた路肩を仮補修して柵が建ててあったり。道路の脇に横たわる青いパイプを指して、「あれは、仮の水道管です」と。まずは水が届くようにと、地上に水道管をつなげているのだ。

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