のっけからベートーヴェン交響曲第9番にあわせた「もっこり」ソングを歌い、風俗店から飛び出た下品なアラジンが登場し、「安心してください、はいてますよ!」を彷彿とさせる裸芸のシーンまでありますが、いつまでも悪ふざけノリを引っ張らず、テンポよく場面のトーンが切り替えられていきます。演じる役者たちの台詞回しやキャラクターの作り込みも2次元の世界観にとどまり過ぎていません。
程よくリアリティがあると感じさせるのは、主人公の冴羽獠を演じた鈴木亮平の活き活きとした演技力が大きいでしょう。もともと原作ファンだったという鈴木。しかも子供の頃からアニメにハマり、原作漫画も読み込んだ筋金入りです。「いつか冴羽獠を演じたい」と自身のブログをはじめ、テレビや雑誌でもその思いを以前から語っていました。裏社会のトラブル処理を請け負うスイーパー(始末屋)という役柄を見事にこなしています。女性の前ではデレデレしながらも、仕事のスイッチが入るとガンアクションまでクールな冴羽獠というキャラクターの魅力を最大限に引き出していると言えるほどです。
ヒロインの槇村香役には、現在放送中のNHK朝ドラ「虎に翼」に出演、Netflixでは「全裸監督」の黒木香役が印象的だった森田望智がこれまた好演。また獠の相棒である槇村秀幸役に安藤政信、獠とは腐れ縁である麗しの刑事、野上冴子役には木村文乃をキャスティングしています。
新宿でほぼ前例のない大規模ロケ
そもそも「シティーハンター」の原作の連載が始まったのは1985年です。シリーズが続いたアニメ版は1980年代後半から1990年代前半にかけて地上波で放送されたもの。実写化されるのは日本ではこれが初です。
過去にはジャッキー・チェンが冴羽獠になり、韓国では斬新にもラブコメにアレンジ、ヨーロッパではおフランステイストの「シティーハンター」が作られていますが、意外にも日本では実写化されていませんでした。時を経て製作し、全世界配信のNetflixとならば、今届けるべき意味が必要なのかもしれません。
その答えの1つに日本最大の歓楽街である歌舞伎町をはじめとする実際の新宿でロケを行ったことにあると思います。新宿・歌舞伎町の地元商店街、新宿行政関係者、警視庁・新宿署など各関係者から全面協力を得て、新宿ではほぼ前例のない大規模なロケ撮影となったそうです。
渋谷の巨大スクランブル交差点をセットとして作ってしまったNetflixですから、歌舞伎町を再現したセットも不可能ではなさそうですが、「シティーハンター」の場合はよりリアルな街の今を映像に落とし込むことに価値を見出しています。「バーニラ、バニラ、高収入」とアドトラックが走り、キャバクラからオカマバーまで混在し、若者から熟年まであらゆる人々が行き交ういつもの新宿の空気感が実際に伝わってきます。
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