AIで「一般的な労働者の給料が上がる」ロジック 労働者側の経済学者が説く逆説の「AI楽観論」
デビッド・オーターがAI楽観主義者というのは意外に思える。マサチューセッツ工科大学(MIT)の労働経済学者であるオーターは、テクノロジーと貿易が長年にわたってアメリカの労働者の所得をどれだけむしばんできたかを示す綿密な研究でよく知られる。
ところが、そのオーターが今、テクノロジーの新たな波、つまり極めてリアルな画像や動画を生成し人間の声や文章を違和感なく模倣することができる生成人工知能(AI)は、そのような傾向を逆転させる可能性があると主張しているのだ。
「AIはうまく使えば、オートメーションとグローバリゼーションによって空洞化したミドルスキル労働者、すなわちアメリカの労働市場の中心にある中産階級を修復する助けとなる」。オーターは2月に『ノエマ・マガジン』で発表した論文にそう書いた。
高所得エリートの仕事をAIが「一般開放」
AIに対するオーターのこうした見解は、テクノロジーが労働力にもたらす犠牲に関する長年の専門家のものとしては驚くべき転向と映る。これに対しオーターは、事実が変わったため、自身の考えも変わったと述べた。
オーターによると、現代のAIは根本的にこれまでのものとは異なるテクノロジーであり、新たな可能性への扉を開くものだという。AIは、重要な意思決定の経済条件を変えうるもので、現在は医師、弁護士、ソフトウェアエンジニア、大学教授といった高所得エリートの専門家が担っている仕事の一部をより多くの人々が引き受けられるようになる、とオーターは続けた。